ニューヨークの精神科医のもとを、とある女性患者が訪れた。聞けば、夢の中で眉がつながった奇妙な風貌の男と何度も出会うのだという。医師がイラストを描き机に置いていると、ほどなくしてやってきた男性が、自分も夢の中で同様の風貌をした男に会ったと証言。しだいにそんな相談が増えるようになり、この情報を聞きつけた男が「thisman.org」なるサイトを立ち上げ、情報を募集した。すると驚くことに、同様の風貌をした男が夢の中に現れた、とする証言が、アメリカだけにとどまらず、ドイツやブラジル、さらにイラン、中国、イタリア、スペインなど世界各地から寄せられる。その数なんと、2000人に。夢に現れるという謎の男「THIS MAN」の都市伝説である。
陰謀論や都市伝説など、不思議な現象を研究するジャーナリストが解説する。
「かねてから『シェアード・ドリーム』という現象は確認されています。複数の人が同じ内容の夢を見るというものですね。正確に言えば、これは同じ夢を見るのではなく、異なる夢に同じ人物が現れるわけです。そのため、偶然に発生したものが無意識のうちに模倣されていく夢模倣理論や、ユングの元型理論といった社会学的・心理学的概念に基づいたものではないか、との説があります。あるいは眉毛が繋がった男そのものが創造主を模した姿であり、神格的な存在なのではないか、という宗教理論的な説もある。これらの説を含め、『THIS MAN現象』をめぐる様々な解釈がなされました」
ところが、騒動から数年を経て、この騒動は最初にサイトを立ち上げたイタリア人のマーケティング専門家による創作であると判明。これは本人が「ゲリラ・マーケティングの一環だった」と認めたことによるのだが、同名映画の宣伝に利用するため、この都市伝説を流布したと証言している。
だが不思議なことに、その後、欧米で映画が公開された形跡はなかった。しかも検証により、この怪奇現象は1940年頃からすでに始まっていたことが判明。そうなると、このイタリア人がサイトを立ち上げる何十年も前から、夢に現れる謎の男は存在していたということになる。
「そして今もなお、この男が夢に現れたという証言はあとを絶ちません。これはいったい、何を意味しているのか。『THIS MAN現象』は、世界の名だたる心理学者でも解明できないものとして、存在し続けているのです」(前出・ジャーナリスト)
昨年6月にはパニックスリラー映画「THIS MAN」が日本で公開されたが、はたして「THIS MAN」はゲリラ・マーケティングとしての創作だったのか、それとも創造主だったのか…。
(ジョン・ドゥ)