まさに「涙の悲劇」と言うほかはない。4月27日、香港のシャティン競馬場で行われた国際GⅠ・クイーンエリザベス2世カップ(芝2000メートル)で、日本から参戦した3冠牝馬のリバティアイランド(牝5)に、最後の直線で競走を中止するというアクシデントが発生した。
多くの競馬ファンが固唾を飲んで事態の行方を見守る中、サンデーサラブレッドクラブは同日夜、次のような「訃報」をウェブサイトで公表した。
〈左前脚の種子骨靭帯の内側と外側を断裂しており、球節部の亜脱臼により球節部が地面に着いている状態でした。誠に残念ながら、獣医師により予後不良の診断を受け、安楽死の処置が施されました〉
競走馬の安楽死処置がいかに切なく重苦しい決断であるかは、今回の悲劇的なアクシデントからも否応なく浮かび上がってくる。
シャティン競馬場で一部始終を目撃していた関係者らの話を総合すると、リバティアイランドの異変に気付いて下馬した鞍上の川田将雅は、同馬を労るように自ら手綱を引いて、外ラチ近くまで誘導した。
ところが上記のクラブ発表にもあるように、リバティの左前脚には痛々しい致命的な損傷が。その瞬間、全てを悟った川田は痛がる愛馬の鼻ヅラに顔を押しつけ、両肩を心なしか震わせながら「号泣」し始めたのである。
スタンドからは「リバティ!リバティ!」の応援コール。しかし、ファンが目撃できたのはここまで。悲劇の現場はただちに遮断幕に覆われ、その陰で「麻酔」と思われる処置が施された。この時、川田は内ラチ沿いに身を寄せてうなだれていた。
その後、苦痛除去のための麻酔と思しき処置が即座に奏功したのか、馬具などを外されたリバティは遮断幕の陰でターフ上に横たえられた。そして、緑色のシートに覆われると、駆けつけた馬運車に収容されたのである。
安楽死処置がターフ上で行われたのか、馬運車で搬送された後に行われたのかは、現時点では不明である。
いずれにせよ、今となっては「名牝リバティ」の冥福を祈るばかり。産駒の活躍を期待していただけに、筆者としても残念無念の極みである。
(日高次郎/競馬アナリスト)