それは2月下旬のこと、日本の暴力団が台湾を訪れたことで、現地メディアを賑わせた。台湾のニュース専門チャンネル「三立新聞網」は、暴力団を招いた白髪の紳士と現地警察が、台北市のレストラン入り口で押し問答する様子を伝えている。その映像を見ると、現地暴力団の身分を確認しようとしたのか…。警察は、
「日本人を守るために、ここに来ている」
と主張するも、白髪の紳士はそれを跳ねのけて、
「ゲストは我々が守る。お引き取り願いたい」
この白髪の紳士は、張安楽氏(写真)。政党「中国統一促進党」の総裁だ。「白狼」の異名を持ち、台湾マフィア「竹聯幇」の元理事長として知られる。政治活動を行う現在も、マフィアに対して陰然たる影響力を持っているとみられている。
この張氏の動向が、日本メディアで取り上げられたことがある。今から2年前、沖縄の地方紙「琉球新報」が「台湾マフィア 県警注視 旭琉会と足掛かり狙う」と題して、張氏が2015年に沖縄を訪れて以降、沖縄の指定暴力団「旭琉會」と台湾マフィアが接近し、沖縄県警が警戒を強めていると報じたのだ。
ところが、この2月の暴力団訪台のメンバーに、旭琉會の構成員はいなかったという。社会部記者が言う。
「日本の暴力団が訪れたのは、張氏が主催した『洪門(ホンメン)』という、清朝から続くとされる結社の式典でした。以前から関係が取り沙汰されている旭琉會は代目継承を控えていた時期ゆえ、出席を見合わせたようで、式典で挨拶に立った張氏は『日本から山口組がいらっしゃっている』と話したそうです。日本の捜査当局によれば、六代目山口組と稲川会系、極東会系の構成員が台湾を訪れた。他にマレーシアなど東アジアの裏社会からの招待客もいて、全体で1000人規模の式典だったと見られています」
アジア版「極道サミット」ととも呼べる式典だったのだ。気になるのは張氏の政治思想である。政党の名前でわかるように、台湾を中国に返還すよう主張。台湾当局は、張氏が中国共産党から資金提供を受けている、と指摘したことがある。それほど中国との関係は密接とされているのだ。
仮に張氏の主張通りに、台湾が中国共産党の支配地域になれば、日本にとっては国益を損ねる事態となる。と同時に、暴力団にとっても喜ばしい話ではないはずだ。暴力団事情に詳しいジャーナリストが言う。
「中国は麻薬取引には死刑などの厳罰で臨んでおり、実際に中国で死刑になった暴力団関係者がいます。台湾が中国の一部になることを望む暴力団員はいないでしょう。ただ、この張氏という人物は経済力に富むだけでなく、いわゆる裏社会で生きる人間にしてみれば、世界を股にかけて暗躍した立志伝中の大物。振り込め詐欺や麻薬の撲滅を主張するなど、日本の暴力団が共感を覚えるのは無理もないのです」
先の「琉球新報」によれば、日本の警察は張氏の行動の背後に中国スパイ工作があると疑っている。まさか日本の暴力団まで、中国共産党の工作対象となっているのか。