政府・与党は20年ぶりに食料・農業・農村基本法の改正作業に着手しており、5月には農水省が中間とりまとめ案を作成した。その中で強調されているのは「食料安全保障」への対応だ。ウクライナ戦争を機に、世界各国は貿易自由化から自国の食料安定供給に方針転換し、「囲い込み運動」を始めていることも影響している。
岸田内閣は今、食料安全保障に熱心だ。その背景には、中国が台湾に侵攻し、中台紛争が勃発した際には「1年以上も紛争が続き、日本の輸入が止まれば餓死者が出る」との試算があるからだという。
政府・与党内では、基本法の中に「食料安全保障を国民一人一人がいつでも食料を容易に入手可能な状態にすることと定義し、平時からの食料安全保障を確保する」ことを明記すると決定している。
「いざという時に、本当に食料難になる。太平洋戦争中や、戦後のような状態になる。だから平時である今から準備しないと間に合わない、ということです。これを明言したことは、衝撃的でした」
全国紙官邸担当記者はそう言って驚きを隠さないのだが、その上で、
「岸田内閣がこれほど本気で食料安全保障に取り組むことが、そもそも意外でした。ウクライナ戦争以外に、何か根拠があるはずです」
これについて、農水省関係者が言う。
「いろいろな想定を積み重ねた末の結論だが、中台間で紛争が起これば、北米からの輸入も止まる。エネルギーが難しくなり、ほとんどが輸入に頼っている小麦・大豆もストップする。りん安などの肥料も中国頼みだ。1年でも凶作になったら、国内備蓄だけでは日本の食料事情はかなり深刻になる」
日本の食料自給率は、カロリーベースで38%。中台紛争が起きると、日本への輸入は全て停止する。国内で生産し、カバーするしかないが、田畑を耕す人がいない。2022年度の基幹的農業従事者数は123万人で、この15年で約40%も減っている。しかも、平均年齢は67.9歳。自民党関係者は、
「輸入できない分を、70歳の人に耕してもらわらないといけないのが、日本の実態。有事が起き、長期化すればどうなるか。想像すれば分かることだ」
一方で、食料ロスにより大量の食品が廃棄されているが、飽食ニッポンの姿は砂上の楼閣のようである。
(健田ミナミ)