サッカー・フランスW杯アジア予選で指揮を執った加茂周監督が、激怒したことがある。加茂監督は一見、コワモテ風だが紳士的で、あまり感情を表にするのを見たことがなかった。
そんな加茂監督が怒りをあらわにしたのは、あるスポーツ紙の記事が原因だった。1997年6月22日、東京・国立競技場で行われたフランスW杯の1次予選。マカオ戦の試合前に報道陣の囲み取材に応じた加茂監督は「こんな報道はやめてほしい」と厳しい口調で苦言を呈したのだ。
それはマカオ戦について「10ゴール以上はイケる!」といった見出しがついた、いかにもスポーツ紙らしい煽り記事だった。この時の1次予選は、同組でランキング上位のオマーンと日本の2カ国での集中開催。3月22日にオマーンで行われたマカオ戦には10-0で勝利しており、筆者もこの記事を見て特に何も思わなかった。
ところが加茂監督は違った。
「対戦相手にあまりにも失礼だ。日本と試合をするために来てくれたことに、敬意を示してほしい」
そうまくしたて、珍しく語気を荒らげたのだ。報道陣は返す言葉もなく、静まり返った。
試合は日本が10-0で勝利したが、その後、サッカー報道でこの手の煽り記事を目にすることは減った。「対戦相手へのリスペクト」という言葉が使われるようになったのも、加茂監督の発言の影響が大きいのではないか。
(升田幸一)