17年ぶりに突如として現れた平田容疑者。誰しもが忘れかけていたオウム事件の忌まわしい記憶を呼び起こすとともに、その出頭には多くの謎が横たわっている。オウムを追い続けた元公安調査庁の菅沼光弘氏が、その謎を解く鍵を本誌に緊急直言した。
新興宗教に限らず、あらゆる宗教は教祖が亡くなったあとに分裂する。これは教えを請う人がいなくなり、教義だけが残り、その教義の解釈を巡り、信者の意見が対立するためだ。
では、オウム真理教はどうか。上祐史浩氏が「こうだ」と言えば、「違う」と言う人も現れた。結果的には、「Aleph」と「ひかりの輪」に分裂した。
菅沼氏はかつて公安調査庁の調査第二部長として、共産圏の国々の調査を担当していた。調査対象の一つであるソ連が崩壊し、ロシアに進出したオウム真理教。旧ソ連軍部との密接な関係を察知した菅沼氏は、オウムの危険性を早くから唱えてきた。その菅沼氏が 「麻原はすでに死んでいる」と言うのは、平田容疑者出頭の動機の解明につながると考えているためだ。
面会した弁護士は「平田はすでに脱会している」と言うけれど、いつ脱会したのかは誰もわからない。そもそも、本当に脱会しているのか。
オウム信者の間では、すでに麻原は死んでしまっている。現在の死刑を待つ麻原は「仮の姿」であると平田が捉えていれば、教祖の肖像を破ろうが、踏みつけにしようが、心は痛まない。
新興宗教の信者には、教団は抜けたけど教義は信じているという「隠れ信者」が多い。もちろん、内心で信仰しているのは自由だが、平田の場合は逃走を手助けしていたグループの存在があったと思われ、脱会を鵜呑みにはできない。
出頭直後には、オウム事件の13人の死刑囚の執行を遅らせるために、平田が出頭してきたのではないかとも報じられた。実際に、警視庁は麻原への聴取をするようだし、死刑執行は遅らせたことになる。死の宣告をされた人間の証言がどれほどの証拠能力を持つのかという問題点もあるが、何より重要なのは平田がオウムの教義、そして麻原をどう捉えているかということだ。
平田の出頭時の行動からわかることは、何としても昨年中に出頭し、逮捕されたかったということだけ。
もしかしたら、民主党政権になってから、死刑を執行しない法相が続いたが、年初に行われた内閣改造で法相が代わる可能性を察知していたのかもしれない。
もしくは、「ひかりの輪」を公安調査庁が今後も観察対象とすべきか否かの公安審査委員会の審議が始まる直前に出頭して、その攪乱を狙ったのかもしれない。
とにかく、あらゆる可能性を捨てずに解明していく必要がある。特に、出頭してきた平田を追い払った警視庁は肝に銘じてほしい。平田の出頭で、オウム事件は終わっていなかったことが明白になったのだから。