主要なガンの中でも「胃ガン」ほど、地域格差が明確なケースはない。北は青森から南は佐賀まで、ズラリと日本海側に集中しているのだ。
「これまでに比べると、全てのガンにおける胃ガンの比率は減ってきています。国民に『塩分を控えめにする』という意識が行き渡ったからでしょうか」(松田氏)
それでも、わかっちゃいるけど‥‥なのが日本海側ということになる。それは雪に覆われた厳しい冬が影響している。
「胃ガンの発生率を下げるのが野菜や果物ですが、雪が降る冬場には摂取することができない。そのため、野菜でいえば漬物が主流となり、塩分の過剰摂取につながってしまうんです」(矢野氏)
こうした地域のスーパーなどでは「塩分を減らそう」とキャンペーンを張っているが、全国的な塩分カットの時流にあっては、まだまだという現状。それが罹患比に反映したのだろう。
また近年、日本海側は猛吹雪による被害がたびたび伝えられているが、死の恐怖と戦う日常も、あながち胃ガンと無縁ではない。
「雪国の人は真面目で粘り強い性格だけど、それでも、毎日のように雪下ろしをしなければ家が潰れてしまうというストレス。これは相当に応えます」(矢野氏)
正確に言えばストレスと胃ガンに直接の因果関係はない。ただし、胃炎や胃潰瘍の要因になっていることは事実で、胃の粘膜が傷つけば必然的に胃ガンの発生率も上がるのである。
さて、日本海側の鳥取・米子出身である野球評論家の角盈男氏は、こうしたデータを興味深そうに眺めて言う。
「基本的に塩分の摂取は多いですね。魚料理が多いから刺身醤油を使っていたし、漬物もよく食べる。あと、味噌汁には合わせ味噌を使って、かなり濃い目の味付けでした」
野球で遠征に行くと、同じ日本海側である東北の料理は鳥取と同様に塩辛い味付けに感じたそうである。
そんな角氏は昨年、「前立腺ガン」であることを公表したが、治療の結果はどうなったのか。
「昨年10月で完治。食生活においても、今は何の制約もありません」
角氏の担当医によれば、近年、日本人で前立腺ガンが増えている理由に「食生活の欧米化」があるという。以前よりも動物性脂肪や動物性たんぱくを摂取するようになったが、逆に緑黄色野菜を摂取する割合が減少。これが危険因子として前立腺ガンの増大につながった。
「僕らの世代から食習慣が変わったよね。ハンバーグとか洋食志向になったから」(角氏)
そしてプロ野球選手といえども、ヘビースモーカーは意外に少なくない。角氏の巨人軍時代は、バスが2台に分かれるほど喫煙者も多かった。
その喫煙がリスクとなるのは「肺ガン」であるが、やはり喫煙率どおりの罹患比を示した。