野球マンガの最高峰として国民的な人気を誇る「ドカベン」。その作者である水島新司氏の地元・新潟市で、マンガよりも奇天烈なトラブルが勃発している。町のシンボルに君臨していた「ドカベン」たちの銅像が、作者の意向で撤去の危機というのだが‥‥。
「古町は私が少年時代を過ごしたところ。少しでも商店街の活性化に貢献できれば」
02年12月14日、新潟市古町通五番町商店街で行われた除幕式で、マンガ家・水島新司氏(75)は喜々として「プレイボール!」を宣言した。さびれた商店街を再生させるために作られた「水島新司まんがストリート」の目玉として、人気キャラの「ドカベン」や「あぶさん」など7体のブロンズ像が設置された。以来、10年以上も商店街のシンボルとして愛されてきた。
ところが、今年3月末をもって撤去するようにと、水島プロダクションが弁護士を通して通告したのだ。突然の事態に同商店街・池一樹理事長は驚きを隠せない。
「そのことに関しては協議中のため、商店街としてはノーコメント。ただ、撤去にはまだ着手していません」
ドカベンの舞台・明訓高校は新潟に実在する高校であることからも、その郷土愛の強さで知られる水島氏。水島プロの代理人の弁護士は「管理がなっていない、作者の意図に合わない」ことを撤去理由としているが、オープン時の水島氏の喜びようを思えば、何とも不可解なのである。
評論家で日本マンガ学会会長でもある呉智英氏も首をひねるばかり。
「新潟はマンガの町おこしに熱心で、水島さんを審査委員長にして『新潟マンガ大賞』を開催したこともありました。銅像に関しては水島さんの好意で版権使用料も取らずにきていただけに、円満な解決方法はなかったのかと思います」
地元の商店街だけではない。新潟市としても観光循環バスやマンガ・アニメ情報館に水島氏のキャラクターを使用してきた。04年の発車セレモニーでは、水島氏がこう話している。
「感無量もいいところですね。私のキャラクターが毎日毎日、同郷の人たちの目に触れるわけですから」
こちらも3月末で打ち切りとなり、地元で愛された「ドカベン号」が姿を消している。新潟市役所・文化政策課の担当者が語る。
「市としては無償ではなく、これまで版権使用料を払っていました。ただし今回は、水島プロさんのほうから『版権管理業務を縮小したい』とのことで、版権が終了しました。市民の皆さんにとっても愛着があるので、何とか継続していただけないかとお願いしたのですが‥‥」
銅像を巡って水島プロ側が「管理がなっていない」ことを理由としたため、地元ではさまざまな憶測が流れた。1つは「ドカベンのケツバット」に作者が激怒したのではないかという説。
ドカベンこと山田太郎の像は、ちょうどバットを振り抜く状態になっている。そのバットの部分に女の子たちがお尻を突き出して写真を撮ることがブームになり、ネット上に「ケツバットガール」なる画像まで出没した。
「それは理由ではないでしょう。むしろ、それだけドカベンのキャラが愛されている証拠ですから」(前出・呉氏)
商店街や市サイドも黙して語らずだが、地元でささやかれているのは「使用料の吊り上げがあったのでは?」との声。現在、水島プロの業務を取りしきる長男の新太郎氏が“暗躍”しているのではないかと、地元のみならず、マンガ業界からも漏れ伝わってくる。
はたして、なぜ水島氏の地元で撤去騒動が起きたのか。水島プロを直撃すると、不機嫌な声で答えた。
「その件に関しては弁護士に一任していますから。もう電話を切りますよ!」
山田や岩鬼らが繰り広げた「甲子園の激闘」のように、さわやかな幕切れとはなりそうもない‥‥。