人気野球漫画「ドカベン」の中では“ルールブックの盲点”として描かれていたこのエピソード。
まずは「ドカベン」内で描かれた描写をもとに説明すると、攻撃側が1アウト満塁のチャンスで、次打者でスクイズを敢行。だが、これが投手への小フライとなり打者がアウト。ただ、この時スタートを切っていた三塁ランナーは三塁に戻ってタッチアップせずにそのまま本塁に滑り込んでいた。その間に投手は1塁から大きく飛び出していたランナーを見て1塁に送球し、アウトとなりダブルプレーが成立。
これで、第3アウトが宣告されたので、守備側はベンチに引き上げたのだが、実は、その前に守備側は1塁でのアウトと、タッチアップせずに本塁に突入した3塁ランナーとでアウトの「置き換え」をしないと、この1点が認められてしまう、というもの。第3アウト成立後であっても、守備側はベンチに引き上げる前に審判に対し三塁ランナーの離塁が早かったことをアピールし、三塁ランナーをアピールアウトにしておけば、得点が認められることはないというわけである。この得点が認められていることに気づかなかった守備側はアピールすることなく野手全員がファウルラインを超えた時点でアビールする権利を喪失してしまっていたのだった。
そしてここから先が実際の夏の甲子園で起きた“ルールブックの盲点の1点”である。12年第94回大会2回戦の済々黌(熊本)対鳴門(徳島)戦でのこと。7回裏、2‐1とリードしていた済々黌の攻撃で1アウト一、三塁の場面だった。ここで次打者が打ったライナーを鳴門のショートが直接捕球し、この時点で2アウト。そして済々黌の一塁ランナーはヒットエンドラン、三塁ランナーもギャンブルスタートのサインが出ていたため両ランナーともに大きく離塁していたが、ショートはファーストへ投げ、一塁ランナーをアウトにした。この間に全力疾走していた三塁ランナーは送球がファーストに渡る前に本塁に到達していたのである。守っていた鳴門の野手陣はそのまま全員がファウルラインを越えたため、アピール権が喪失、三塁ランナーの生還が認められ、済々黌に1点が追加されたのだった。結果的にこの1点がダメ押し点となり、試合は3‐1で済々黌が勝利した。なお、試合後のインタビューで済々黌の三塁ランナーは小学生時代に「ドカベン」を読んでいたため、この“ドカベン・ルール”を知っていたことを明かしている。
(高校野球評論家・上杉純也)