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ポール・マッカートニーを逮捕した男…伝説のGメン「最後の手記」(1)あんなに胸クソの悪い事件はなかった

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 昨年、突然「体調不良」で公演を中止したポール・マッカートニーがついに来日。ビートルズのメンバーとして歌って以来、49年ぶりに日本武道館のステージに立つ。思い出されるのは、35年前のポールの逮捕劇だ。この世紀のスーパースターを逮捕した伝説のGメン・小林潔氏が、現役時代を最終総括する特別手記をお届けする──。

 あんな胸クソの悪い事件は38年に及ぶ現役生活の中でもなかったというのが、私の正直な感想である。というのも、逮捕したのにポールは入国していないことになり、我々が逮捕した事実も消えてしまったからだ。私も若かったから、

「入国していない人間がどうしてパクられたりするんですか!」

 と、当時は上司に食ってかかった。

 今、世間はポールの来日で沸き立っているが、彼が来日するたび、この不愉快な思いがよみがえるのだ。

 1980年1月16日──。厚生省(当時)の麻薬取締官らは日本公演のため、成田空港に到着した元ビートルズのメンバー、ポール・マッカートニー(37)=当時=を大麻所持で逮捕、東京・中目黒にある関東信越地区麻薬取締官事務所に連行した。

 ポールはスーツケースの中のいちばん上にビニール袋入りの大麻を無造作に置いていた。そして、税関であげられても悪びれもしなかった。「何でこんなことで騒ぐんだ」くらいにしか思っていなかったのではないだろうか。

 当時、私は麻薬取締官事務所の横浜分室に勤務していた。中目黒の事務所は税関から連絡が入ると、情報官室の全員が成田へ向かった。そして私を含む横浜分室の職員も応援部隊として中目黒に移動した。

 ポールは成田から中目黒に向かう車の中で終始うつむいていたという。中目黒に到着すると、集まったファンが「イエスタデイ」などビートルズのヒット曲を合唱していた。そして事務所の周りを取り囲むので、どの部屋で取り調べをしているかわからないように、窓際のブラインドを全て下ろした。とりあえず、弁解録取書を取ることになり、取り調べには横浜分室の英語に堪能な取締官が当たった。ポールはずっと顔が青ざめていた。

 ふと外を見ると、ファンは膨れ上がるばかり。1日目には前庭に200人、2日目には300人のファンが集まり、横にある非常階段にも群集がいっぱい。皆、興奮していた。私なんか、「不当逮捕だ」と顔をブン殴られたものだ。

 今もそうだが、麻薬取締官事務所には留置施設がないため、容疑者の勾留は警視庁にお願いする。しかし、ファンに取り囲まれて、身動きが取れない。そのため機動隊に出動を要請し、ファンを排除した。

 当時、警視庁は建て替え工事中で、新橋に施設の一部があり、私が留置場まで押送した。途中、首都高速3号線が事故で閉鎖されていたが、高速の職員に事情を話して門を開けてもらった。

 ポールはまだ弁護士と接見していなかったので、その不安そうな様子といったらなかった。

◆プロフィール 小林潔(こばやし・きよし) 元厚労省関東甲信越厚生局 麻薬取締部捜査第1課長 1942年千葉県生まれ。拓殖大卒業後、厚生省関東信越地区麻薬取締官事務所に奉職。数々の事件を手がけ、伝説の麻薬取締官の名をほしいままにする。著書に「ガサ!麻薬Gメン捜査ドキュメント」(徳間書店)、「白い粉の誘惑~麻薬Gメン捕物帖~」(宝島SUGOI文庫)など。

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