裁判が終了しても、清原被告には更生の試練が待っている。「伝説のGメン」と呼ばれる元取締官の小林潔氏が、数々の薬物事件を手がけた経験から、「番長再起」に向けた覚悟と障壁について、緊急手記を寄せた。
清原君、君は初公判の日をどのような気持ちで迎えたのだろうか。
傍聴券を求めて集まった大勢の市民はきっと、君の身を案じているに違いない。私は今回の裁判は「懲役1年半、執行猶予3年」の判決が出ることを予想している。しかしそれは、執行猶予の期間だけ「我慢」すればいいというものではない。君が覚悟しなければならないのは、これから一生、壮絶な自分との闘いが始まるということだ。
以前、私が出演した情報番組で覚醒剤事犯の再犯率に話が進み、50代以上は79%であることが話題になった。私は「清原はこれから再起を果たそうかというのに、マイナスの話題ばかり提供すべきではない」とキャスターを戒めた。重度の糖尿病患者でもある君が重圧に負けて、再びクスリに手を出してしまう姿が目に浮かんだのだ。
私は現役時代、違法薬物に手を染めた芸能人を十数人逮捕した。そのうちの1人が、大麻を隠し持っていた大物歌手A。Aは歌謡界の数々の賞を手にしたが、逮捕当時は往年の華やかさは感じられず、落ち目になったという挫折感は否めなかった。おまけに整形の失敗くらいで大麻に手を出し、さらに1年前からは覚醒剤もやっていた。動機はストレスだった。
最初は強気に突っぱねていたAだが、取調べが進むと犯行を認め、裁判でも裁判官から、「君は歌をやめてはいけない」と諭された。あれから30年以上が経つが、Aにはその手の話は一切出ていない。
清原君、君はK-1に出られるくらいの肉体改造をしたそうだが、人間は肉体ではない。Aはヤワな風貌をしているが、その信念は堅いのだ。
その後、Aからは時折、電話をもらった。
「小林さん、お元気ですか? 今、ハワイにいるんですよ」
近況報告をするAの声を聞くたびに、これは大丈夫だとの思いを強くした。
清原君、判決をもらった君は近く、謝罪会見に臨まなければならないかもしれない。報道陣からはさまざまな質問を突きつけられ、立ち往生するに違いない。本来なら、これから己との闘いが始まる君は、できれば会見などはやめた方がいいのだが、これもスターゆえのつらい試練か‥‥。
これから君がやらなければならないのは、夢を与え続けた青少年を裏切ったことを心から詫び、再起に向かってスタートを切ることだ。しかし、それはマスコミに対して気を遣うことではない。君は入院先の松戸市内の病院で張り込んでいた報道陣に焼肉弁当を配り、それを完食した記者もいたそうだが、そんな馴れ合いはもう必要ない。
私は取締官の現役時代、家族の名前を出して、取調べ中の容疑者を揺さぶった。君の場合もそうだったのではないか。子煩悩の君のこと、警視庁の捜査員から、
「お父さん、この頃どうしているんだろうなって、子供が心配してたぞ」
と揺さぶられ、涙したこともあるはずだ。しかし君は家で暴れ、子供が通う学校前で暴れたことは今や、有名な話になっている。