熱烈ファンのみうらじゅん氏が「青春ノイローゼ」と表現したように、70年代に圧倒的なアイドルオーラを放った栗田ひろみ(57)。80年の引退以降、一度も姿を見せないが‥‥。
「は~い、どちら様でしょうか?」
インターホンの向こうから、聞き覚えのある甘い声。都内の一等地にある4階建の豪邸に彼女は住んでいた。
「取材ですか? どうしよう、プールから帰ったばかりでお化粧もちゃんとしていないのに」
恥ずかしげにドアを開けたが、小柄であどけない表情は、人気アイドルだった70年代にタイムスリップさせてくれる。その名前と同じくクリッとした大きな瞳と、愛らしい八重歯がトレトレードマークだった。
とりわけ映画「夏の妹」(ATG)やCMの「小枝」(森永製菓)は、栗田のキュートな魅力を前面に押し出した。
「小森和子さんにCMナレーションをやっていただいた? よく覚えてますねえ、驚きました(笑)」
みうら氏だけでなく、誰もが“青春ノイローゼ”になるほど同時代のマドンナだったのだ。
女優としての代表作は73年に公開された「放課後」(東宝)である。地井武男演じる年上の男を誘惑する女子高生が栗田の役どころだった。引退から35年の中で、一度だけ芸能の仕事を引き受けたのも同作である。
「06年にDVD化された際に、オーディオコメンタリー(音声解説)に地井さんと参加させてもらったんです。久々の仕事だったのでドキドキしましたが、地井さんにリードしてもらえて無事に終わりました。それから何年かたって亡くなられたのは残念でしたね」
引退後、わずかなOL生活を経て81年に結婚。夫は工業用の潤滑油を販売する会社を経営しており、日本とバンコクを行き来する日々。一人息子は30歳になったと言うが──、
「2年前に男の子の初孫が生まれたんです。とてもかわいいんですよ」
“おばあちゃん”という響きは、いい意味で似合いそうもない。