「お前はドジでのろまなカメだ!」の叱咤に、日本中の女子がシビれた。これに「はい、教官!」と答えるけなげな姿に、男たちがときめいた。大空を舞台に、「スチュワーデス」という職業が最上級の輝きを放っていた時代の物語である。
〈教官! スチュワーデスになって世界中を飛び回ります。そして‥‥いつか教官の胸に飛び込んでもいいですか?〉 スチュワーデスを目指す松本千秋に扮した堀ちえみ(44)は、真っすぐな瞳で誓いの言葉を口にした。憧れの相手である村沢教官に扮したのは、一昨年、紫綬褒章を受章した名優・風間杜夫(62)だ。
厳しい指導で千秋にあたる村沢は、千秋の好意を知りながら、あくまで熱血漢として向き合う。例えば、泳げない千秋に対し、「路上で海難訓練」という突飛な行為に出た。 〈俺が好きなら、俺を救命ボートだと思って必死にたどり着け!〉
〈はい、教官!〉
千秋は路上という “海”を夢中で泳ぎ、教官という“救命ボート ”にたどり着く‥‥。
こうした描写の数々で大ヒットした「スチュワーデス物語」(83年10月~/TBS)は、前出のシーンのように「大映ドラマの雛型」に位置される。村沢が千秋に言い放つ「ドジでのろまなカメ」は、84年度の流行語大賞に選ばれたほど浸透した。
風間は82年公開の「蒲田行進曲」(松竹)で、スター役者の倉岡銀四郎に扮し、映画賞を総なめにして第一線に躍り出た。後輩のヤス(平田満)に対して、最後の「階段落ち」から声をかける場面は印象的。
〈ヤス、上がって来い、お前は志半ばにして倒れる勤皇の志士だ。ヤス、上がって来い、ヤス!〉
どこか千秋に声をかける教官と似たところがあるが、風間自身もそんな感覚はあったと言う。
「あの映画があれだけ評価されたのは、撮影所にうごめく普遍の愛憎を描いて、観た人が『また頑張ろう』って気になった。この『スチュワーデス─』も、サラリーマン的な世界とは違う熱血モノで、そこから若い子たちが勇気をもらったんだと思う。もっとも、銀 ちゃんと教官のキャラはまるで違うけど(笑)」
それにしても、つかこうへいの舞台で鳴らした風間に、大映ドラマの独特な撮り方は抵抗はなかったのだろうか。意外なことに師であるつかは、風間の役を見て「お前にピッタリだ!」と絶賛したそうである。 「あの当時、高視聴率が続いた大映テレビのドラマツルギーでは『あいまいな芝居』は求められない。怒っているのか、笑っているのか明解にしなきゃいけないし、喫茶店のヒソヒソ話だって大声でしゃべらなきゃいけない」
こうした独特の説明セリフは、プロデューサー・野添和子の意向が反映された。火曜夜8時という放映の時間帯には、家庭の主婦は台所に立ちながら観ていることが多い。画面に背を向けても、セリフを聞くだけでストーリーがわからなければダメだというのだ。 こうした手法やセリフ回しに、デビュー2年目の堀ちえみは、どこか戸惑っていた。さらに強行スケジュールで知られる大映ドラマは、人気アイドルには戦いの場となった─。
この続きは全国のコンビニ、書店で発売中の『週刊アサヒ芸能』でお楽しみ下さい。