安らかに眠るのか、それとも、もがき苦しむのか・・・・。人間が必ず迎える“死に際”は、“生きざま”同様に千差万別だ。もちろん、生前に名をはせた人々とて例外ではない。そんな有名人15人の「臨終の瞬間」を追跡。あなたの「理想の逝き方」はどれだ?
男たちの「憧れ」であり、多くの俳優から「兄貴」と慕われた原田芳雄(享年71)。
彼がこの世を去ったのは去年の7月19日のことだ。半年が経過した現在、多くの人々が抱える「喪失感」は、ますます大きくなるばかりなのだ。
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原田が亡くなる8日前、遺作となった映画「大鹿村騒動記」の試写会に現れた鬼気迫る姿は、多くの人の脳裏から離れない。
その時、車椅子を押していたのが、娘の麻由だった。舞台女優として活躍する原田麻由が、父親の最期をこう振り返る。
「父は退院して仕事に復帰することしか考えていませんでした。どこまでも前向きな人でしたから。病院の廊下で歩行練習もしていましたし、亡くなる前日も見舞いに訪れた石橋蓮司さんを相手に、次の作品について語り合っていました」
原田同様に家族も、病気の経験がのちの俳優人生に生かされることを信じて疑わなかったという。
その遺作の監督を務めた阪本順治氏も、突然の最期だけに喪失感は大きい。
「芳雄さんのお宅に伺って一献傾けることで、ふだんのモヤモヤみたいなものが晴れるんです。言うなれば、カウンセラーのような存在でした。そして、新しい企画を考える時、芳雄さんのようにドシッと強い意志を持って存在してくれる人がいなくなったことを痛感しています。神様や仏様は信じていないけど、僕が信じるのは芳雄様だけ。今もロケ先には遺影を持って行き、ロケの成功を祈り、手を合わせています」
これほどまでに、原田が人々を引き付けたのは、その仕事に対する姿勢だ。
代表作「竜馬暗殺」で共演し、40年来の交友がある俳優の外波山文明が言う。
「若い時から映画に対する熱意はすさまじかった。それは、年齢を重ねても変わらなかった。台本がおもしろく、熱意があればインディーズ系の映画でも出演する。だから、志ある映画人は原田家に集う。若手俳優たちが集まると、一人芝居をやらせることもありました。その若手の一人が芳雄さんの大切にしていた火鉢を割っちゃってね。芳雄さんは怒るわけにもいかず、苦笑いを浮かべていたな」
そんな原田家に集う映画人の一人が阪本氏であった。
「芳雄さんと飲むたびに、『お前とは、まだ一本も本気で取っ組み合っていないぞ』と言われ続けてきました。でも、そのあと、『俺、あと何年生きられるんだっけ?』と冗談めかして言われて、ドキッとしたのを覚えています」(阪本氏)
阪本作品にたびたび出演していた原田だが、どれも脇役であった。原田なりの“ラブコール”だったのかもしれない。そして、08年に大腸ガンの手術をしていた原田にとっては、みずからの死を意識しての発言だったのかもしれない。
阪本氏が初めて原田を主演に迎えて、メガホンをとったのが遺作となった「大鹿村騒動記」であった。
低予算のため、撮影期間はわずか2週間。朝から晩までハードな撮影をしなければならない。 「芳雄さんの体調への不安は、クランクインしてすぐに吹き飛びました。今まで脇役で出ていただいた芳雄さんとは、まったくの別人がそこにいたのです。とにかく目が怖いほど、鋭かった。これが映画で主役を張る俳優の気構えなのだなと思いました」(阪本氏)
無事、クランクアップしたその日、缶ビールで乾杯をした直後に、原田は阪本氏にこう言ったという。
「お前と初めてやり合えた気がしたよ」
阪本氏は、この言葉が忘れられないという。
「この作品を撮れたか、撮れないかで、僕の監督人生は大きく違っていたと思います」(阪本氏)
そんな阪本氏から原田の娘、麻由に思いがけないプレゼントがあった。麻由はこう話す。
「ステキなラストシーンに、私もセリフをいただいて、父、芳雄と絡むことができました。脚本にないシーンなので本当に驚きました」
2月29日、4年に1度やってくる原田の誕生日。今年は赤坂ブリッツで追悼ライブが行われる。多くの仲間がステージに駆けつけるという。
死してますます存在感の増す原田芳雄。男の死とはかくありたいものだ。
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