韓国軍に北朝鮮特殊部隊員の侵入を防ぐ手だてはないと、軍事ジャーナリスト・潮匡人氏は解説する。
「韓国は潜水艦の探知能力が低く、魚雷攻撃で被害を受けることも十分考えられます。一方の韓国の戦闘機はF-15Kなど第4世代が主力ですが、北朝鮮の主力戦闘機はMiG-21などの第3世代なので戦いにならない。北朝鮮には訓練するための燃料もない状況で、飛ばすとパイロットが亡命するリスクもある。十分な練度がないという見方が有力です。ただ、木でできた『An-2』はレーダーに映りにくく脅威です」
人間兵器の訓練に、金や燃料は必要ない。北朝鮮の特殊部隊員はこうした状況で増え続けていったのだ。
「戦局としては北朝鮮の最初の攻撃が成功し、ソウルは落ちるでしょう。しかし、北朝鮮が半島全体を制圧するには時間がかかるので、どこかで国際社会や米軍が止めることになるとは思います。戦時作戦統制権は米軍が持っており、韓国軍はその指揮下に入るので、少しでも米軍が躊躇すれば韓国はやられ放題になります」(軍事ジャーナリスト・井上和彦氏)
その時適用されるのが、米韓共同作戦「5029」である。
「韓国国会などでの政府答弁を参考にすると、米韓連合軍が北上し、最高指導者を制圧、同時に核などの大量破壊兵器を制圧するという計画だと考えられます。そうなれば『第2次朝鮮戦争』という表現が当てはまる展開は起こりえます」(前出・潮氏)
たとえ米軍が介入しても、侵入した北朝鮮特殊部隊員はゲリラとなり、テロ戦争はどこまでも続くことになる。03年に始まったイラク戦争は自爆も含めたテロとの戦いになった。開始から8年後、アメリカが“撤退”する結果となっている。
──このように半島を泥沼に陥れる事態は、まさに勃発直前だったのだ。8月4日、北朝鮮が非武装地帯(DMZ)に仕掛けた地雷で韓国軍兵士が2名負傷したことが発端となった。韓国の朴槿惠大統領(63)には「外交」という回避手段をとることができない事情があった。
「10年に韓国は延坪島(ヨンピョンド)を北朝鮮に砲撃され死者を出す被害を受けました。その際反撃しなかったため、弱腰外交と国内で批判されたこともあり、断固たる措置を取らねばならなくなったのです」(前出・潮氏)
10日、韓国側は38度線に設置した巨大スピーカーから、北朝鮮内の国民に向けた「政治宣伝放送」を11年ぶりに再開することで対抗する。20日には、北朝鮮軍が数発砲撃、すかさず韓国軍は数十発応射する。そして21日、北朝鮮の金正恩第1書記(33)は「準戦時状態」を宣言。最高レベルの厳戒態勢を敷き半島の緊張感は限界まで高まったのだ。
北朝鮮側から仕掛けた「戦争」だが、背景にあったのは意外にも、9月3日に中国の北京で行われる「抗日戦勝70周年式典」。中国の習近平国家主席(62)が、北朝鮮の金第1書記に出席を要請したことだった。ジャーナリストの近藤大介氏が説明する。
「来なければ今後の援助停止の可能性と、軍事同盟の解除もうかがわせたのです。しかし、金正恩が平壌を離れるとクーデターが起きる可能性があります。北京に行けば暗殺される可能性もあります。この2つのリスクが現実に起こる可能性が非常に高かったので、どうしても出席できないのです」
窮した金第1書記が考え出したのは、
「韓国と準戦時体制になれば、断る理由になる」
という奇策だった。北朝鮮の砲撃開始は、まさに中国への回答期限直前だったという。