「夏の“洋画”超大作ラッシュはまだ終わっていない!」
映画公式サイトにデカデカと掲げられたキャッチコピー。しかしコレ、けっして新作ハリウッド映画の告知ではない。9月12日から公開される話題の邦画、東野圭吾原作の大型社会派サスペンス「天空の蜂」の宣伝文句だ。しかも、驚くようなコピーはこれでは終わらない。
「このスケールに洋画ファンも驚く!」「このアクションに洋画ファンも手に汗握る!」「このドラマに洋画ファンも引き込まれる!」、そして最後には「それでも懐疑的な洋画ファンは、本作をその目で確かめろ!」とまで煽っているのだ。
近年、話題作の配給では東宝の後塵を拝することが当たり前となりつつある松竹。ところが、今回はナンバーワン売れっ子作家の東野圭吾原作、監督も「20世紀少年」などヒットメーカーの堤幸彦。さらにいまだタブーとされる原発を題材としたサスペンスアクションをCGを駆使して作り上げた大作ということもあり、普段は邦画に足を運ばない洋画ファンまで巻き込んで、松竹の「メガヒット映画にさせたい!」という鼻息の荒さが嫌というほど伝わってくる広告ではある。
しかし、お気づきの方も多いだろう。これは3年前、日本で苦戦が続いたアメコミ映画に一石を投じた「アベンジャーズ」のキャッチコピー「日本よ、これが映画だ!」と全く同じ手法だ。上から目線コピーは批判も受けたが、多くのパロディを生み、アメコミに興味のなかった女性客も取り込んでアベンジャーズに40億円近い興収をもたらした。この勝ちパターンを松竹が狙っていることは間違いない。
エンタメ専門誌編集者もこう語る。
「一目瞭然でしょう。しかしアベンジャーズは所詮、特撮ヒーローものです。今回の『天空の蜂』とはフィクションであること以外、180度違います。原作は東野圭吾がまだベストセラー作家になる前、原発がこのような状況になる以前に未来を予期したかのような緻密な内容で評価されている20年前の傑作です。この背景だけでも年々増殖する東野ファンを映画館に大量に呼ぶことはできますし、同世代の女性に人気の高い江口洋介、『おくりびと』で年配に浸透している本木雅弘という渋いながらも的確なキャスティングで、こんな社会派ストーリーが霞むような妙な宣伝を展開しなくても、この秋最大のヒットになるポテンシャルを持っていたはずですが‥‥」
実際、「こんな酷い映画宣伝は初めて見た」「東野先生、怒ってないか!?」「被災者も複雑だろうね」「原発問題をアメコミレベルに落とすなよ」など、東野ファンや邦画ファンをバカにしたような宣伝には評価より批判のほうが多いようだ。
「ヘリコプターを“蜂”に見立てた作者の文学性はもちろん、ストーリーもしっかりしていますから、『S-最後の警官』や『アンフェア』など最近のテレビドラマ映画程度で満足できる客層でしたら『これは傑作』と書き込む人もいるかもしれません。ところが洋画ファンを煽ったことで、あえて言わせていただければ、ヘリコプターのCGはアベンジャーズには到底及びませんし、脚本も相変わらずの説明セリフの多さ、テレビリポーター映像などのありえない描写も多く、邦画の弱点も随所に見られます。このお門違いの宣伝がマイナス要因にならなければいいのですが‥‥」(前出・エンタメ専門誌編集者)
巷では翌週に公開される「進撃の巨人」後編の前に立ちふさがるか否かも話題のようだが、恥も外聞も捨てた宣伝効果はいかに!?
(藤田まさし)