秋も深まり、早いところではそろそろ冬支度を始める時期ですね。冬に向けて気温がしだいに下がってゆくとともに、空気もどんどん乾燥していきます。空気が乾けば、心配なのが「ドライアイ」です。
「ドライアイ」とは、目の表面が乾き、傷がついたり、不快な症状が出たりする目の病気です。近年はパソコンやスマートフォンの普及により、電子機器のモニターをじっと見続ける時間が昔と比べて段違いに増えています。会社では終始パソコンの画面とにらめっこ。移動中やプライベートの時間でも、のべつ幕なしにスマホの小さな画面をのぞき込んでいる、という生活をされている方も多いのではないでしょうか。
そうした生活環境の変化により、「ドライアイ」の患者は増加傾向にあります。一説によると、国内では800万人から2200万人いるとも言われています。
「ドライアイ」の原因は次の2つ。【1】涙が目の表面からすぐに蒸発してしまい、乾いてしまうこと。空気の乾燥、まばたきをあまりしないこと、パソコン画面を長時間見続ける、などが直接の原因となります。【2】涙腺から涙を十分に作ることができないこと。ストレス、ホルモンバランスの乱れ、全身の分泌の仕組みの異常、などが直接の原因となります。
そもそも涙には、目の乾燥防止、ばい菌が入ってくるのを防ぐ、目の表面の角膜を通して酸素や栄養を送る、目に入ったゴミやホコリを洗い流す、などの役割があります。涙は、とても重要なのです。
その涙は、上のまぶた付近にある涙腺というところで作られ、まばたきによって、目の表面に広がります。目の表面を潤した涙は、目頭付近にある涙点(るいてん)から、鼻の穴のほうに流れていきます。十分に涙が作られ、うまく涙点へと流れていれば、目はいつも潤っています。しかし、【1】や【2】のようなことが起こると、「ドライアイ」の症状が出てくるのです。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。【1】~【5】は、多かれ少なかれ誰でもあることですが、以前よりも症状が重くなったり、生活に不便を感じるほど頻繁に起こるようであれば、要注意です。【6】~【10】は、「ドライアイ」の症状です。1つでも当てはまれば、すぐに対策を講じましょう。
「ドライアイ」の対策としては以下になります。
(1)部屋の加湿。暖房の風が直接、目に当たらないようにする。
(2)目を指などで触らない。
(3)テレビ、パソコンの画面などを長く見つめない。数時間ごとに目を休める。
(4)意識してまばたきをする。
(5)目薬の使用。
このうち、最も簡単で効果的と思われる目薬の使用について、ここで正しい目薬の使用法を紹介したいと思います。
ちなみに目薬をさしたあと、目をパチパチするのは間違った方法です。
ある医薬メーカーの調査で、9割以上の人が正しい点眼ができていなかったことがわかりました。多くの人が、目薬をさしたあと目をパチパチしていたのですが、これは間違い。目薬をさしたあとは、しばらく目を閉じて、さした目薬が鼻やのどに流れないように、目頭を軽く押さえる、というのが正しい方法です。
目頭付近にある涙点には、鼻涙管(るいびかん)といって、目から生じた涙を、鼻やのどに流す管があるので、そこを軽く押さえないと、せっかくさした目薬が、鼻やのどに流れていってしまいます。目をパチパチさせると、目薬が目全体や患部に行き渡ると思いがちですが、この方法では、薬が目の外にあふれ出てしまうことが多く、十分な効果が得られなくなってしまいます。
目薬も、市販されているものは人工涙液ですが、医師の処方により、潤い成分であるヒアルロン酸入りや、ムチン分泌促進剤入りの点眼薬を使うと、良好な効果があります。
また、医療機関では、涙点を塞いでしまうような治療も受けられます。これは、涙腺で作られた涙が、涙点を通って鼻腔へと流れ出す道を、「涙点プラグ」という直径0.6~0.8ミリ程度のシリコン製の栓で塞ぎ、涙の排出を防ごうというもので、「涙点プラグ挿入術」と呼ばれます。
処置時間はおおよそ10分ほど。片方の目に2つずつある涙点に目薬で麻酔をし、症状に応じて涙点プラグを涙点の一方、もしくは両方にはめ込むだけ。もちろん外来でOKです。簡単で高い治療効果が得られるのが最大の利点です。
涙には角膜の傷を治すために必要な「細胞成長因子」という物質が含まれていますが、涙点プラグによって涙の流出が少なくなれば、この物質も目の表面で増え、角膜の傷も通常数日で修復されます。
なお、最近はコラーゲン製のプラグもあります。2カ月くらいで溶けてしまいますが、突起がなく違和感がないのが特徴です。シリコン製が合わない人は、試してみるとよいかもしれません。
最後に豆知識を少し述べます。コンタクトレンズを使っている人は、コンタクトレンズの使用がドライアイの原因になる場合もあるのでご注意ください。眼球に密着するコンタクトレンズは、涙の流れを変えたり、アレルギーによる乾燥を引き起こす可能性があります。保湿効果のあるモイストタイプのコンタクトレンズも売られているので、心配な方はこちらを試してみましょう。
女性の方は、アイラインを入れる場所にもご注意ください。上下まぶたの縁には、合計50~70個のマイボーム腺という分泌腺があり、脂質を分泌し、涙液の乾燥を防ぐ油膜を形成しています。ここがアイメイクで塞がれると、脂質が分泌されず、ドライアイになる可能性もあります。アイラインを、まつげの外側ではなく、内側や粘膜もしくはまつげの根元にしている場合に多いのです。
コンタクトレンズメーカーのチバビジョンによれば、7割の女性がマイボーム腺を塞ぐメイクをしていたそうです。メイクの濃い女性がいたら、気をつけるように伝えてみてはどうでしょう。
──ドライアイチェック項目──
【1】運転したり、細かい文字を読んだりすると、すぐ目が疲れる
【2】朝起きると、目ヤニがたくさん出ている
【3】目のかゆみがしばしばある
【4】目が重たく感じるなど、何となく不快感がある
【5】光がやけにまぶしい
【6】目が赤くなっていることがある
【7】10秒以上、目を開けているのがつらい
【8】目がゴロゴロして痛い
【9】目が乾燥してショボショボする
【10】異物が目に入ったりして、目の表面に傷がつき、物が見えにくい
※3つ以上当てはまる人は要注意。特に【6】~【10】に1つでも当てはまればドライアイの可能性があります
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。