10月下旬に入り、いよいよ本格的な冬を迎えようとしています。冬の健康の話題といえば、「風邪」ですね。この時期になると、毎年、風邪の話題がいたるところで出てきます。
風邪の語源は、中国医学における風の邪気、すなわち風邪(ふうじゃ)によって引き起こされる病気とされたところから来ています。俳句でも冬の季語として使われることがありますから、冬に風邪をひく人が多いのは、今も昔も変わりません。多くの人は熱が出たり、頭痛がしたりといった症状を、ひとくくりに風邪の症状と言っていますが、そもそも風邪とは何でしょうか? 正確にその定義を知る機会というのは実はなかなか少なく、風邪は知られているようで意外に本当のところはよくわからない病気ですので、今回は風邪の基本から話したいと思います。
風邪というのは、ウイルスや細菌などが、鼻や喉などの粘膜に入り、炎症が生じた状態のことをいいます。その原因は、80~90%がウイルス(風邪のウイルスは200種類ほどあります)で、10~20%が細菌もしくはマイコプラズマという菌になります。
ウイルスも細菌も、一般的には“ばい菌”と呼ばれていますが、両者はまったく異なります。ウイルスは細菌の100~1000分の1程度の大きさで、自分では細胞は持たず、他の細胞に入り込み、その中で増殖して悪さをします。一方、細菌は1つの細胞からなり、食物や体中で自分で分裂して増えることが可能です。そして、その中間に位置する、大きさ的にも中ぐらいのばい菌の一つが、マイコプラズマなのです。
ウイルスの中でも、インフルエンザというウイルスが原因となって起こるのが「インフルエンザ感染症」です。他のウイルスによる風邪と比べ、症状がとても強く、重症化することもあるので、他の風邪とは区別して管理されるようになりました。インフルエンザ以外にウイルスを診断・特定することがほとんどないのは、費用や時間がかかることに加え、その多くが体内の免疫力によって軽い症状で治ってしまうからです。インフルエンザは、高い熱や強い悪寒、倦怠感などの全身症状が出ることが多いのに対し、一般の風邪は鼻水、鼻詰まり、喉の違和感程度で治ることが多く、全身症状が出ることは少ないのが特徴です。国内では2001年より、インフルエンザウイルスに対する特効薬が医療機関で処方されるようになりました。また、02年からインフルエンザと通常の風邪を鑑別する検査キットが用いられるようになっています。
では、チェック項目(ページ下部)を見てみましょう。
風邪をひきやすい人というのは、イコール免疫力が弱い人ですから、【1】~【6】のような生活習慣の人は免疫力が下がっており、風邪をひきやすいと言えます。
【7】は、人の体は体温が平熱より1℃下がると、体内で病原体と戦う白血球の機能が30%低下する、と言われています。
【8】は、ウイルスの多くが湿度40%以下になると空気中を漂う時間が長くなってしまうからです。部屋の換気とともに、加湿器などで湿度調整にも気を配りましょう。
一般の風邪でもインフルエンザでも、ウイルスや細菌の力と、自分の体の免疫力、この2つの力のバランスによって、感染が軽症で終わるか重症になるかが決まってきます。同じウイルスや細菌でも、軽い症状で治る人もいれば、炎症が広がり、気管支炎や肺炎などを起こす人がいるのはこのためです。
ですから、風邪の予防としては、第一に免疫力を上げることですが、一方で、ウイルスや細菌の力を弱めることも重要となります。体の中にウイルスや細菌を入れないようにする、たとえ入ったとしても外に出すことが大切です。まずは帰宅時に、手洗い、うがいをすること。不特定多数の人が触れたものを触ったら、手をよく洗いましょう。水やぬるま湯で行うだけでも効果的です。また、風邪をひいている人のせきや唾液に含まれているウイルスが健康な人の喉に入った場合、約20分でのどの細胞にくっついてしまうとされているので、こまめなうがいも大切です。うがい薬を勧める場合もありますが、消毒薬であるヨード入りのうがい薬などを使うと、正常である細菌までも少なくなり、風邪予防の効果が低くなるといった調査結果も報告されています。最近では、緑茶や紅茶でうがいをするという方法が理にかなっていて、推奨されています。お茶のカテキンという成分に殺菌効果があるからです。電車内などで、近くに人がせきをしているのに、どうしてもうがいができない場合は、20分ごとにお茶を飲み、喉のウイルスを胃に流してしまう方法もあります。通常のウイルスは胃酸により死滅するからです。
さらに、インフルエンザの最新の予防法として、ビタミンDをとる(サケ、サンマ、干ししいたけ、あんこうの肝、乾燥きくらげ、煮干し、筋子、いくらなど)、乳酸菌R-1をとる(ただし現在、明治の製品にしかこの乳酸菌R-1入りはありません)などが報告されつつあります。他の乳酸菌による腸内環境を整えることも免疫力を上げることにつながるのではないかと期待されています。
それでも風邪をひいてしまったらどうしたらいいか。現在、インフルエンザウイルスに対する抗ウイルス薬以外で、風邪のウイルスそのものを撃退する薬は残念ながら存在しません。市販や処方される風邪薬には、解熱、せき止め、去痰、鼻水解消などに有効な成分が含まれています。しかしこれは対症療法といって、あくまで症状を和らげるものであり、根本的に風邪を治すものではありません。
風邪を治してくれるのは、体に備わった自然治癒力です。その人の持っている免疫力がウイルスなどを退治するのです。ですから、風邪を早く治そうと思ったら、バランスのとれた食材を食べ、十分な睡眠や休息をとること。これが風邪を最も早く治す方法です。そして生活習慣に気をつけて、風邪に強い体をつくりましょう。
──風邪チェック項目──
【1】運動が嫌いだ
【2】ストレスを抱えている
【3】食事をする時間が不規則で、好き嫌いが多い
【4】睡眠不足である
【5】タバコを吸う
【6】お酒(日本酒に換算して)を1日で3合以上飲む
【7】体温が低め、もしくは冷え性である
【8】部屋の換気に無頓着だ
【9】満員電車に乗るなど人混みの中にいる機会が多い
【10】手洗いやうがいをしない
※6個以上当てはまれば、風邪をひきやすい人と言えます。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。