めっきり寒くなってきて、朝、ベッドや布団から出るのがつらい季節となりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回のテーマは、そんな寒い冬にふさわしく、「内臓型冷え性」です。
実は過去、この連載の第9回目で、「冷え性」についてはすでに取り上げています。しかし、この時はあくまで冷え性全般のお話であって、「内臓型冷え性」に関しては、そういうものもあるので気をつけましょう、という程度にとどめていました。そこで今回は、あらためて「内臓型冷え性」にしぼって解説してみたいと思います。
そもそも「冷え性」とは、他の人が冷えを感じないのに、自分だけ、手足の先や、体全体が冷たく感じることです。従来は、手足の先だけの冷えを「冷え性」と呼んでいましたが、最近は、内臓が冷えることによって、さまざまな症状が起こる「内臓型冷え性」が注目されつつあります。
「内臓型冷え性」で起こる症状は、大きく2つに分けられます。1つは、「血行が悪くなる」。体内の血液の流れが悪くなることで、骨格では肩凝りや腰痛が生じます。内臓では、頻尿や、胃腸のトラブル、脳においての不眠や集中力低下などが起こります。
そしてもう1つは、「免疫力の低下」による感染症(風邪やインフルエンザ)、アレルギーなど。体が冷えると、ばい菌と戦う白血球の機能が衰えると考えられています。
人間の体中で、酸素・栄養・体温を体の隅々まで運ぶ役割を担っているのは、血液です。その血液の流れが悪いと、心臓から遠い手足へ温かい血液が行き届かず、冷えを自覚します。これが、これまで言われてきた手足の冷え性です。しかし、ひどくなると手足だけでなく、さまざまな内臓への血液の巡りも悪くなってしまい、いろいろな症状が出てくるのです。ある衣料販売会社の「下半身の冷えに対する実態調査」によると、女性の9割、男性の7割が、下半身の冷えを感じていることがわかりました。
では、チェック項目を見てみましょう。
【1】は、手足だけでなく、おなか(胃腸)や太腿(筋肉)が冷えるということです。朝起きた時、まず脇の下に手を挟み、体温を感じてください。そのあとにおなか、太腿を触って比較して、脇の下よりも冷たければ、内臓型冷え性の疑いがあります。【2】は、体全体が冷えるということ。【3】は腸が冷えるため。【4】は下っ腹にある膀胱も冷えるためです。【5】は背骨や肩の周りの筋肉が冷えることで、痛みに敏感になることがわかっています。
以下は、冷えという症状で、重い病気が見つかることもあるという例です。それぞれ、【7】は心臓の衰えによる心不全、【8】は貧血(血液の中の赤血球が少ないと、脳に十分な血液が運ばれなくなる)、【9】は甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが低下して、代謝が悪くなり、体が冷える)により、顔が異常に白い、疲れやすいなどの症状を伴います。【10】は、閉塞性動脈硬化症(主に片側の足の動脈が動脈硬化によって細くなり、血流が悪くなる)によって起こります。
なぜ内臓型冷え性が起こるのか、なぜ血液の巡りが悪くなるのかというと、次の3つが考えられます。
(1)体で熱を作ることができない。体内の熱の大半は筋肉によって作られます。運動量が少なくなることで、筋肉から作られる熱が少なくなり、冷え性になるのです。その他、食事の量が不足したり、胃腸の働きが悪くなっても、熱が作られにくくなり、冷え性になります。
(2)自律神経の乱れ。自律神経は、交感神経と副交感神経が巧みに働く仕組みになっています。例えば、寒い⇒交感神経が働く⇒血管が収縮する、逆に、暖かい⇒副交感神経が働く⇒血管が広がる、となりますが、この温度調整の仕組みが乱れると、冷え性となるわけです。特に内臓型冷え性の背景には、この自律神経の乱れがあると考えられています。
(3)ホルモンバランスの乱れ。更年期障害などのホルモンバランスの乱れも冷え性の原因となります。
ちなみに、冷え性は女性に多いですが、男性でも女性の4分の1で起こると言われています。男性の冷え性は、仕事の重圧や精神的ストレスが関係していることが多いのが特徴です。ストレスが多いと、交感神経が高ぶった状態になり、血管が縮まって冷え性になります。
冷え性対策の第一は、“保温”です。衣類による保温に気をつけましょう。手袋、靴下による手足の保温は誰もが行っていることですが、それ以外に2つのポイントがあります。
1つ目のポイントは、太腿、おなか、首なども冷やさないようにする。特に内臓型冷え性では、おなか、首の保温が大切です。ズボン下、腹巻、マフラーなどを利用しましょう。体の中で、皮膚に近いところに太い血管が走っているのは、鼠径部(腿の付け根)と首なのです。
2つ目のポイントは、これは女性に多いのですが、体を締めつけすぎないこと。体を締めつけすぎる衣類は、血流を悪くして冷え性を起こすので注意が必要です。
また、冷え性の人は、熱いお風呂はやめたほうがいいでしょう。熱いと長時間入っていられず、体の表面しか温まらないのです。ですから、38~39度前後のややぬるいお風呂に15~20分ほど、ゆっくり入ると、体が芯から温まります。半身浴もいいですね。高齢者では、心臓への負担も少ないのでおススメです。
そして大切なのは、冷え性解消のため、入浴中に足や手の関節をストレッチをすることです。足や手の関節を伸ばしたり、縮めたりするのです。同時に、股関節や肩関節もストレッチできるようなら、行ってください。ストレッチまではできなくても、入浴中に膝の裏や足を手で揉むだけでも効果が期待できます。
しっかりと冷え対策を行って、これから迎える冬本番に備えましょう。
──内臓型冷え性チェック項目──
【1】朝起きた時、おなかや太腿が冷えている
【2】体が冷えて眠れない
【3】胃腸が弱く、腹痛や下痢を起こしやすい
【4】トイレが近い
【5】腰痛や肩凝りが治りにくい
【6】動不足、不規則な食生活、精神的ストレスが多い、のどれかに当てはまる
【7】動悸、息切れすることがある
【8】クラクラと立ちくらみを起こしやすい
【9】顔色が悪いと言われることが多い
【10】左右の足の指に温度差がある
※【1】~【6】のどれかに当てはまれば当てはまるほど、内臓型冷え性の疑いあり。【7】~【10】のどれかに当てはまれば、冷え性が原因で何らかの病気にかかっている可能性があります。
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。