1年近くにわたってお送りしてきたこの連載も、今回が最後となります。最終回は、ちょうど今ぐらいから始まる忘年会シーズンに向け、お酒を飲みすぎた翌日の「二日酔い」についてお話ししたいと思います。
12月に入ると、どこの会社やグループでも、たいてい忘年会をやりますよね。毎年あちこちの忘年会に呼ばれ、この時期は毎日飲み続けだという人も少なくないことでしょう。そして、忘年会が終わればクリスマスやお正月、さらには新年会と、これから1年で最もお酒を飲む機会が増える季節を迎えます。くれぐれも飲みすぎにはご注意を。
そもそも、お酒を飲むとなぜ、酔うのでしょうか? お酒に含まれているアルコールが体内に入ると、肝臓で分解されて、アセトアルデヒドという成分に変わります。このアセトアルデヒドが体にさまざまな変化をもたらすのです。例えば、顔を赤くさせたり、フラフラさせたり、ひどくなると吐き気を生じさせたり、頭痛を起こしたり─もちろん二日酔いの原因にもなります。アセトアルデヒドもやがて徐々に分解され、体の中からなくなるのですが、大量のお酒を飲みすぎて、アセトアルデヒドが翌日も残った状態になると、不快な二日酔いの症状が出てしまうのです。
そこでまずは、お酒について知っておきたい基礎知識を、チェック項目(ページ下部)と合わせて見ていきましょう。
【1】の肝臓のダメージは、一週間に飲むお酒の総量で決まるので、「休肝日」を作ることが肝臓によいという医学的根拠はありません。しかし、休肝日を作っている人は、飲みすぎないようにしようと体にいたわりを持っているので、心理学的に重要です。
【2】【3】はお酒を飲むと、胃の酸が多く出て食欲が高まります。それでも何も食べずに飲み続けると胃の中が荒れるので、空腹の時にお酒は飲まないこと、飲む時は適量のおつまみも食べながら飲むことが大事。とはいえ、脂っこいおつまみは太る原因になるので、つまみの種類にも気をつけてください。
【4】お酒には尿をたくさん出す、利尿作用というものがあります。お酒を飲むとトイレが近くなるのはそのためです。したがって、お酒を飲む前や飲んでいる最中、水分を多くとることも重要。お酒と同じぐらいの量の水分をとることが二日酔い対策になるという人もいます。
【5】焼酎、ウオッカ、ジン、などの蒸留酒で、液体の色が透明なものほど、二日酔いになる可能性が少なくなることがわかっています。逆に、赤ワインやウイスキー、ブランデーのような、風味をつけるための成分がたくさん含まれているものは、二日酔いしやすいです。赤ワインと白ワインを比べてみても、赤ワインを飲んだ人のほうが、翌朝の頭痛がひどかった、という報告があります。でも、これはあくまで一般論ですから、同じお酒でも、その作り方や特徴によって酔い方は変わってきますし、結局のところ、どれだけの量を飲んだのかが二日酔いの程度を決めるのです。
【6】【7】に当てはまる人は飲みすぎやすい傾向がありますから、自戒が必要です。
【8】【9】体調が悪いと二日酔いになりやすいのは当然ですね。お酒は睡眠の質も下げるので、体調改善には悪影響です。
【10】肝臓のアルコール分解能力のほとんどは、遺伝によって決まり、日本人の4割ぐらいが弱いと考えられています。少しお酒を飲んだだけで顔が赤くなる人がつきあいでお酒を飲み続けると食道がんになるリスクが、50倍以上に高まるという研究結果もあります。
ではあらためて、正しい二日酔い対策を紹介します。
(1)お勧めなのは、トマト。トマトには、アルコールの分解を促す効果があることが最近わかってきました。アルコールの分解を約3割ぐらい速めるという研究成果もあります。二日酔いになってからでも遅くはありませんが、できたら、お酒を飲んで寝る前に食べることをお勧めします。ブラッディマリーや、トマト酎ハイなんかも、二日酔い対策としては理にかなっています。
(2)柿。生柿、干し柿、どちらでも効果があると考えられています。柿に含まれるタンニンがアセトアルデヒドとくっついて、体の外に出してくれるのです。また、柿の中にあるカタラーゼもアセトアルデヒドを分解し、排出します。
(3)水分。お酒を飲んで寝る前に、たくさん水分を摂取する。飲んでいる間にも水分をとってください。
(4)ハチミツ。これはぜひとも知っておいてほしい情報です。全米頭痛財団は、「二日酔いの頭痛を解消する最も効果的な方法は、ハチミツをとることである」という研究報告を発表しています。この研究の責任者であるディアモンド博士は、「ハチミツには、果実の大半には含まれない果糖の成分が含まれる。その果糖がアルコールの分解を促し、頭痛を治してくれる」と報告しています。実際にはスプーン2杯ぐらいのハチミツをそのまま口に入れるか、紅茶に入れたり、パンに塗ったりして召し上がってみてはいかがでしょう。また、飲んでいる時に、一緒にハチミツをとるのも効果があります。ハチミツ酎ハイなどは理に叶っています。
ちなみに東南アジアでは、二日酔い対策として、ブラックコーヒーにレモンをしぼって飲むという民間療法があります。これも理にかなっています。コーヒーに含まれるカフェインは血管を収縮させ二日酔いの不快な症状を改善させてくれます。ただし利尿作用もあるので、できるだけ水分も一緒に摂取してもらいたいものです。また、妊婦が酸っぱいものを好むように、レモンの酸味には二日酔いのムカムカや吐き気、頭痛を治し、頭をスッキリさせる働きがあります。
最後に豆知識を。よく、チャンポンすると悪酔いすると言いますが、これはウソ。さまざまな種類のお酒を飲んで、酔いが強くなるということはありません。あくまで、酔いの強さを決めるのはトータルで飲んだお酒の量です。また、飲む前にウコンや牛乳を飲んでおくと、悪酔いしないという人がいますが、どちらも信頼できる医学的データはありません。ただし、牛乳などの乳製品には胃の痛みを和らげる作用があるので、お酒を飲んだあと、胃が痛くなった際に胃薬の代わりに牛乳を飲むというのは、理にかなったやり方です。
それでは皆さん、今までご愛読ありがとうございました。またお会いできる機会を楽しみにしています。
──二日酔いチェック項目──
【1】一週間のうちでどこかで「休肝日」を設けない
【2】空腹の時に飲むことが多い
【3】飲み始めたらつまみはあまり食べない
【4】最初の一杯をおいしく飲むため、飲む前に水分をとるのを我慢する
【5】焼酎などの蒸留酒より、ワイン、ウイスキー、ブランデー等が好きでよく飲む
【6】お酒を飲んでいる時に、他の人よりも上機嫌だ
【7】お酒を飲むことが、何よりもストレス発散になると思う
【8】日頃の疲れやストレスがたまっていると感じる
【9】風邪気味である
【10】少しお酒を飲んだだけで、顔が赤くなる
※3つ以上当てはまる人は、二日酔いになりやすい人、健康に悪い飲み方の人です
◆監修 森田豊(もりた・ゆたか) 医師・医療ジャーナリスト・医学博士。レギュラー番組「バイキング」(フジテレビ系)など多数。ドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」の医療監修も務めた。