独特の「青トレ」なる手法で学生駅伝史上最強の選手層を誇る青山学院大学。強さの秘密は「新・山の神」の存在にばかりあるのではない。当然のように箱根駅伝優勝候補筆頭にあげられる中、「連覇」に向けて指揮官が語った秘策とは──。
「青学史上最強ではなく、学生史上最強チームだと思います」
11月1日の全日本大学駅伝の直前、青山学院大の原晋監督(48)は、自チームをそう称した。そう自負できる自信は十分にあった。
2015年の箱根駅伝は「ワクワク大作戦」という突飛な作戦名を掲げ、91回を数える大会史上、最速タイムで初優勝。だが実はそれは狙いにいった優勝ではなく、予定よりも1年早く迎えた歓喜の瞬間だった。原監督の見立てでは「翌年の箱根で勝つために優勝争いをすること」ができれば御の字だった。つまりは、箱根駅伝優勝の立て役者となった「新・山の神」神野大地(4年)や、高校時代から世代を代表する選手だった久保田和真(4年)らが最終学年を迎える2015─16シーズンこそが勝負の年。ここに大学駅伝3冠を目指して臨んだ。
初戦の出雲駅伝(10月12日)では、王者たる試合運びを見せて1冠目を獲得。2015年の箱根駅伝に続き、ここでも大会記録ホルダーになった。
原監督は続く全日本大学駅伝で、初優勝はもちろん、「三大駅伝全てで大会記録を打ち立てよう」と意気込んで伊勢路に乗り込んだ。
だが、レースは指揮官の思いどおりには運ばない。同じく初優勝を狙っていた東洋大に序盤から先行を許し、今季2度のケガに苦しんだ神野も、復帰戦となったこのレースで本来の力を発揮できず、結局、1分以上の差をつけられて東洋大に屈したのである。「学生史上最強チーム」を強く印象づけるはずが、まさかの黒星。
「全日本で負けてしょぼくれた選手の姿を見て、これは青山学院ではない。笑顔で戦っていかないといけない、と反省しました。また、マイナスな発言が学生の中で多く出ていましたが、前向きな発言をしていこう、とも言いました」
原監督はさらに回想する。
「三大駅伝で初めてこんなに悔しい思いをしました。今までは右肩上がりで、おいしいところばかり見てきたので。就任3年目に箱根駅伝の予選会で大惨敗して以来の悔しさが込み上げてきました。箱根駅伝では倍返しにします」
全日本の2位という結果は過去最高順位。それでも悔しさばかりが残るのは、優勝を宿命づけられたチームに成長した証しなのだろう。
全日本のレース後、原監督はこんな言葉も口にしている。
「私、原監督は、悔しさが出た時には本気度がアップします」
実際に原監督は何度も逆境からはい上がってきた男だった。