全日本の敗因として、エース神野が万全でなかったことは大きかった。アンカーの神野にタスキが渡るまでは若干の誤算があったものの、ほぼ想定していた範囲内で進んでいたからだ。故障明けの神野について、
「ちゃんと仕上げた状態で臨んだ」
と原監督が言うように、5000メートルでは自己ベストに相当する記録で走れるほど調子を戻していた。だが、
「最後の調整で一気に疲れが出てしまい、思うようなパフォーマンスが発揮できなかった」
と、本来の実力からは程遠いパフォーマンスしか見せられなかったのだ。
全日本のあとも予定していた記録会を回避するなど、「山の神」の現況は決して万全な状態ではないが、
「脚の状態を見ながら、慎重に箱根駅伝に向けて状態を上げている」
「山の神」の動向は他校の指揮官も気になるようだ。
「神野君がどういうレースをするかで、レース全体が変わってくる」
これは12月10日に行われた箱根駅伝監督トークバトルでの、東洋大・酒井俊幸監督の言葉だ。ライバル校の監督にそう言わしめるほど、今回の箱根駅伝ではレースの行方を左右するキーマンとなる。かつて東洋大も「山の神」柏原竜二(現・富士通)という上りのスペシャリストを擁したが、その柏原も大学3年時に不調にあえいだことがある。だが、箱根駅伝ではしっかり区間賞の活躍を見せ、
「調子が悪くても、上りが強い選手はやっぱり強い」
とは、酒井監督が身をもって感じたことだ。それだけに、神野が本調子ではないとわかっていても、ライバル校は決して警戒を解くことができない様子。先のトークバトルでは、神野の調子を問われた原監督が、
「安心してください。走りますから」
と笑顔で断言。そして、
「前回は『山の神』神野大地で楽をさせてもらいました。神野の大記録で、復路は観察車の中でニヤニヤしながら余裕をもってゴールさせてもらいましたが、前回以上の記録は望めそうにない。1時間20分を軸に1分半上がるか、逆に1分半落ちるかというところ」
ちなみに前回の箱根駅伝で、神野は5区23.2キロを1時間16分15秒で走破している。原監督が想定する1時間20分は約4分も遅いが、それでも区間3~4位に相当するタイム。確かにこれでは神野で絶対的なアドバンテージを築くことは難しい。しかし5区を「無難に」乗り切ることさえできれば、神野に頼らずとも優勝できるだけの力が、今の青学大にはあるのだ。