若乃花以来となる18年ぶりの日本出身力士の横綱誕生へ──。ベテラン大関・琴奨菊(31)=佐渡ヶ嶽部屋=の勢いが本物だ。大関として決して満足な成績をあげてきたわけではない、遅咲きの大変身。その理由を探ると、意外な秘話ががぶり寄ってきた。
「琴奨菊の活躍は先代師匠の琴櫻を彷彿させますね。琴櫻は大関32場所を務めた力士。72年の初場所では、前の山の張り手に脳震盪を起こした一番が無気力相撲だとして協会から注意を受けた。同じ年には1勝しかあげられず大きく負け越した場所もあり、引退の噂も流れていました。ところがその年の九州場所には14勝1敗で優勝。翌場所も14勝1敗の連続優勝で横綱に昇進してしまった。それとまったく同じものを感じるんですよ」(相撲関係者)
琴櫻は猛牛の異名を取ったが、琴奨菊のがぶり寄りも迫力満点。この相撲関係者が続けて言う。
「琴櫻は右おっつけ、左のど輪。琴奨菊は右を抱え、左を差してのがぶり寄り。違いはありますが、一気の出足で勝負をつける取り口はそっくりですよ」
相撲ジャーナリストの中沢潔氏があとを引き取る。
「突然強くなって、私もびっくりしています。ただ、昨年の成績を見てみると、2桁勝利が1回。夏場所は負け越している。いわゆるCランクの大関で、地位に踏みとどまるのが精いっぱい。確かに横綱昇進前の師匠・琴櫻とよく似ています」
ただ、大関になったということは、それだけ潜在能力を有していることでもある。師匠のように突然化けても不思議ではあるまい。
「私も含め、こんなに活躍するなんて、周囲はまったく予想さえしていなかった。正直、驚いています。これまで琴奨菊はいちずな相撲で大関を務めてきましたが、前半戦調子がよくても、後半戦になると白鵬に敗れ、優勝争いから脱落するのがパターンでした。それがこの初場所は‥‥」
こう語るのは、元NHKエグゼクティブアナウンサーで日本福祉大学客員教授の杉山邦博氏である。何しろ初場所では鶴竜、白鵬、日馬富士の3横綱を撃破し、優勝争いのトップに立ったのだ。
場所前、琴奨菊には特に変わった様子もなかった。いつもと変わらぬ稽古、調整に佐渡ヶ嶽部屋関係者も多くは期待していなかったのである。それが左を差してのがぶり寄りが冴えを見せ、あれよあれよという間に勝ち星を重ねていった。
「今場所、琴奨菊にとって幸運だったのは3横綱が変化せず、まともにいったこと。彼らが卑怯な立ち合いをしていれば、こうはいかなかったはずです」(漫画家のやくみつる氏)