フランスのパリではISによるテロ事件が相次いで起こり、イスラム教でシーア派とスンニ派が分断──中東圏をはじめとする、イスラム社会は完全な混乱に陥っている。
中東・アフリカ・ヨーロッパというのは、各々が全く異なる文化や、地域性を持っている、と感じている日本人は多いのではないだろうか。これらの地域を隔てる地中海は、日本列島が一つ入る程度の大きさで、地球規模では湖のようなものだ。欧州・アジア・中東の中継地はトルコである。
中東の問題は、この地政学的位置づけの理解から出発しなければならない。したがって中東問題は、中東だけの問題ではなく、アジア・アフリカ・ヨーロッパの問題だという認識を持つべきだろう。
かつての文明の中心であり、核となるのが、3つの宗教の生まれたイスラエル・パレスチナ。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、3つの宗教はもともと同じ母体を持つ宗教である。そうした世界の中で、紛争・戦争が2000年続けられてきたわけだ。
キリスト教は大きく分けてプロテスタント、カソリック、オーソドックス、正教系‥‥といくつもの派を持つ。また一口にイスラムと言っても、一つの宗教ではなく、さらに細分化されているというのが実態だ。では、今中東で何が起きているのか考えてみよう。
スンニ派の最大国・サウジアラビアと、シーア派の最大国・イラン。この両国が国交を断絶し、実際に戦時下に入った。中東は完全に分断されたのだ。日本を取り巻く状況同様に、サウジとイランが直接対峙するわけではなく、イエメンなど、中核にある小国で代理戦争を行っているのが、今の中東情勢である。
分断によって、完全に崩壊したのがOPECだ。
原油価格を維持するために生まれた、OPECは、スンニ派、シーア派というイスラム教の宗派とは無関係に、中東を中心とした産油国の生産調整、価格維持のための団体だった。ところが、2つの主要国である、サウジとイランが対立したことによって、生産調整の話し合いは絶望的になった。
ここに出てくるのが、IS(イスラム国)である。ISが生まれた背景は様々あるが、その理由の1つに、「アラブの春」が存在する。
中東・イスラム圏というのは、支配部族が被支配部族を従える完全な階級社会と言える。支配部族とは、中東アラブの王族たちであり、それぞれの国の間で血縁関係を結んでいた。例えばアラブ首長国連邦は6~7つの王様の集合体である。
そのような形で成立していたのが、中東における力の構造であり、均衡だったわけだがアラブの春によって、支配民族がそれぞれの地域で打ち倒されてしまう。次に石油利権をめぐるトップ争いがイスラムの各国で繰り広げられ、それぞれの国の治安体制は、完全に崩壊してしまったのだ。
(経済評論家:渡邉哲也)