王族による強い支配体制の崩壊で、生まれてきたのが、テロリスト集団ISだ。その主なターゲットになったのはシリアであった。
シリアにおいてISは油田を中心とした資源がある都市を次々に確保、勢力を拡大していった。ISは原油という、容易な資金調達手段を手に入れたのだ。
もちろんISの原油は、正規のルートで販売できないため、主に2つのルートで売られている。1つはトルコの大統領ルート、もう1つは、シリアの政府ルートである。「悪貨は良貨を駆逐する」の言葉通り、闇石油という安価な石油が生まれたことで、石油市場の価格は二重価格状態になってしまい、石油相場は破壊された。そこに中国の景気悪化・減速と需給バランスの急激な悪化、アメリカでシェールガスという、新たなエネルギー源が生まれる。この2つのことが同時に起きたことによって、石油価格は崩壊し、中東の経済モデルが完全に壊れてしまったのだ。貧困は王族の弱体化を意味し、さらなる紛争を生み出し、戦火はますます拡大していくだろう。
その中東への関与をますます強めているのが、プーチン大統領(63)のロシアである。
中東社会の中核・サウジアラビアは、これまで親米国として存在していた。ところが王族の世代交代などで権力関係が変わって、現在はアメリカからかい離しつつある。それを見たアメリカは、イランとの間で国交を復活させ、サウジが激怒した。この構図の中で、ロシアはサウジ、イラン両国に接近したのだ。
ウクライナ問題と、続くクリミア独立により、アメリカはロシアに対して強い金融制裁をかけた。しかし、この金融制裁をひとつだけかけられなかったのが、エネルギー分野だ。ヨーロッパの原油、天然ガスの3分の1はロシア経由のパイプラインで運ばれている。これを止められれば、ヨーロッパ──特に東欧諸国は寒い冬を乗り切れない状況があるためだ。ロシアは中東における影響力を強めることによって、自国の資源価格のコントロールもできるというメリットを得ようとしている。ロシアによるIS討伐は、アメリカをはじめとする有志連合とは、同床異夢で行われているのだ。
実は、資源問題の混乱を生み出したのは、日本である。9.11以降から続くテロとの戦いによって、アメリカとイスラム相互の感情は悪化、イスラム圏と直接対話ができない状況が続いていた。両者とフラットな関係を維持できているのが日本である。2回のオイルショックによって、中東とのパイプも太い。02年から中東和平協議が、日本の東京で行われていた背景にはこうした事情があった。
ところが、民主党政権誕生によってそれを行う人物がいなくなり、中東和平協議はアメリカに渡された。一昨年の9月、ついに中東和平協議は完全に破談で終わる。
国連は、第二次世界大戦後の指導体制として存在した。しかし、東西体制の対立によって、機能不全に陥る。そこで西側先進国のみが集まった、G5が結成され、世界経済を主導するようになった。その後2カ国が加盟しG7となり、ソビエト崩壊後に力をつけてきたロシアがオブザーバー国として参加する形でG8となり、新興国も参加しG20になったわけだ。
クリミア問題直後、ロシアはオブザーバー国から外され、G8は消滅。再び冷戦時代のG7体制に回帰しようとしているのが、今の世界である。新たなG7体制こそが、日本・アメリカ・イギリスなどの「新連合国」である。対する中国・ロシアやISなどG7と対立する「枢軸国」。両者の戦火はますます広がりを見せるだろう。
(経済評論家:渡邉哲也)