今シーズン、マイナースタートという屈辱を味わったレイズの松井秀喜。チーム合流後もバットから快音はほとんど聞かれず、打率も低迷。しかしここにきて、にわかに“光明”も見えてきた。チーム事情の悪化に、首脳陣がゴジラの咆哮に期待を寄せ始めたのだ。
「ケミストリーを起こせる選手」
タンパベイ・レイズ傘下3A「ダーラム・ブルズ」でメジャー昇格を目指す松井秀喜外野手(37)が、シャーロット戦に『4番・指名打者』で出場したのは5月22日のことだった。しかし、結果は4打数無安打。前日の同カードでは延長10回にサヨナラ安打を放っており、翌日のデーゲームということもあり、「出場するかどうかは松井の意思に任せる」とチーム首脳陣は話していた。
「1日でも早く実戦感覚を取り戻したい」との思いもあったのだろう。松井は「出る!」と即答したのだが・・・。
5月15日のチーム合流後、「8連戦連続フル出場」と意気込んだが、5月22日時点での成績は30打数4安打4打点、本塁打ナシ。打率1割3分3厘は「チーム野手19人中18位」という成績である。ライバルの元キューバ代表・アンダーソンが打率3割、3本塁打と絶好調なだけに厳しい状況だ。しかし、この低打率にもかかわらず、にわかに松井周辺が騒がしくなってきた。
「近日中にメジャー昇格を果たすらしい」
低迷する成績をよそに多くの米スポーツメディアがそう報じていたのだ。
メジャーリーグ情報に詳しい友成那智氏(スポーツジャーナリスト)がレイズの戦況をこう解説する。
「レイズは4月のチーム総得点が『106』でア・リーグ14球団中4位。それが5月に入って『78得点10位』に落ちています。原因はスタメン野手陣の相次ぐ故障・離脱です。DHのルーク・スコットが調子を落としているところに、1番打者のジェニングス(レフト)、3番・サードのロンゴリア、セカンドのケピンジャーを故障で欠き、ライトのゾブリスト、ファーストのペーニャ、4番目の外野手のジョイス、左の代打要員のアレンが不振。ダーラムのアンダーソンもいますが、彼らはレフトを守れない。消去法で松井の名前が浮上してきたんです」
さらに、松井にとって追い風となったのは、5月25日からのレッドソックス3連戦を控えていたことに他ならない。08年以降、松井はレ軍先発ローテーションの一角、ジョシュ・ベケットを“カモ”にしてきただけに、球団首脳は、松井がベケットに対する相性のよさを発揮してくれれば、下降気味にあるチームの起爆材になると思ったのだ。いわば、故障者続出のチーム状況から考えると、今回の“駆け込み契約”は「ラッキーだった」とも言える。
だがその一方で、シビアな見方もされている。
「近く昇格するらしいが、ケン・グリフィーJr.の晩年のように、やることがなくて、ベンチで居眠りでもするんじゃないか?」
この記述は米MLBマニアのサイトに書かれたもの(現地時間5月13日付)。辛辣な内容も多いが、しっかりとした取材に裏打ちされた記事によって構成されているだけに、メジャーファンの間でも非常に信頼性も高い。そのため「すでにマツイは終わった」と思っているメジャーファンも少なくないのだ。
しかし、メジャー10年目を迎える松井に対する賛辞の声はいまだに根強いものがある。メジャー選手代理人事務所のスタッフが言う。
「マツイは『ケミストリーを起こせる選手』と、こちらでは評価されています。フォア・ザ・チームの精神、好機での勝負強さ、夏場以降尻上がりに調子を上げていく点などがそうです。数字に表れない“化学反応”でチームを変えることのできる選手という意味です。レイズと契約する前、ヤンキースのジラルディ監督、ヤ軍時代の打撃コーチに当たるドジャース・マッティングリー監督が称賛の言葉を並べたのは、日本人メディア向けの社交辞令ではありません。そういうマツイの長所をよく知る監督、コーチのいるチームと契約できなかったのは『アンラッキー』でしたが・・・」
松井にとって、マイナーでの打率低迷も、“ゴジラの逆襲”に向けての準備期間なのかもしれない。