「好調なのは鯉のぼりの季節まで」と揶揄され続けた広島カープの勢いがホンモノだ。エースのマエケンがいなくなったのになぜ? その答えは、チームに絶大な影響をもたらした2人の大ベテランと、指揮官の変貌にあった。
「12球団の中で、どこにもこういうストーリーはないと思います。エースと4番が同時にいなくなることは普通、ありえない。さらにありえないのは、その2人が同時に戻ってくるということ。創作しろと言われてもできない劇的な物語です。その2人について緒方孝市監督(47)は『黒田が投げたら新井が打つ』と何度も言っている。これがカープの定番になっています」
こう語るのは、中国放送「EタウンSPORTS」コメンテーターで、著書「主砲論 なぜ新井を応援するのか」(徳間書店)を上梓したばかりの作家・迫勝則氏である。
07年オフ、広島カープの黒田博樹(41)はドジャースへ、そして新井貴浩(39)は阪神へ、それぞれFAで移籍。そして両者はそろって15年にカープに復帰した。その年の4月11日、阪神戦。2人は復帰後初めて、同時にスタメンに名を連ねた。迫氏は「主砲論」でこう書いている。
〈この試合からだったと思う。黒田がふんばれば、新井が応えるという不思議な関係が生まれた。試合は7対2でカープが快勝した〉
新井はその後、4番に座った。今年もまた主砲として君臨し、チームは交流戦終了時点で、2位・巨人に6ゲーム差をつけ独走態勢に入っている。25年ぶりのVが、いよいよ現実のものとなりつつあるのだ。スポーツ紙デスクが解説する。
「新井はとにかく黙々と練習する。そんな大ベテランを見て、選手たちに火がついた。『新井さんでもあんなに練習しているんだ』と。普通、本拠地では昼12時過ぎから選手たちが現れ、1時頃から練習が始まる。主力は2時とか。ところが新井は午前中の10時頃からすでに球場で練習を始めている。結果、早出の若手が続出し、打撃ケージの取り合いになっています」
新井は広島復帰後、その打撃スタイルを変えている。前出・迫氏の分析は、
〈明らかにパワーや瞬発力は低下している。なのに、阪神に移籍する前の新井貴浩よりも、打席に安定感がある。(中略)具体的に言えば、ボールがいちばんよく飛ぶタイミングからボール半個分くらい捕手に近いところでボールを捉えている〉(「主砲論」より)
迫氏はさらに言う。
「新井の若い頃の哲学は、『空に向かって打つ』『バットを振り抜く』だった。それが阪神の7年間で完全に考え方が変わりました。カープに戻った時、体の中の新たなネジが巻かれた。打たないかぎり、ファンは誰も復帰を認めてくれない。ファンに認められたい一心で、打席に立っているのです。絶対に三振しない、という執念。それを他の野手も見ています。そして『野球とはこうやるものだ』と感じている。『優勝する』という言葉もそう。今まで選手たちは半ばかけ声的に『優勝する』と言っていました。ところが新井は本気で言っている。それが伝播し、今年の選手たちは皆、新井のように本気で『優勝する』と口にしています」