東電電気料金値上げのデタラメを暴く!
「原発のコストは火力よりも断然高い」
もはや「原発は安全」なんて、誰も信じていない。そんな状況下で、「原発推進派」がよりどころとしているのが、「原発は安い」だった。ところが、これがとんでもないデタラメだったのだ!
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野田総理が大飯原発再稼働の決定を下した大きな理由の一つとして、「原発コストの低さ」という前提があったのは確実だろう。だが、福島原発事故以来、「安全神話」とともに、この「原発は安い」という“前提”も崩壊しつつある。〈液化ガス=5・7円、石炭火力=6・2円、石油火力=10・7円、一般水力=11・9円、原子力=5・3円〉
この数字は、04年に政府が公表した各電源の発電コスト。1キロワットの電力を1時間発電した際にかかる費用である。
一見、原発は安いように見える。しかしダマされてはいけない。
環境・エネルギー政策が専門の立命館大学教授の大島堅一氏はこう話す。
「政府の試算値は、いわゆるモデルケースに基づいたもので、いろいろ問題がありました。例えば、設備利用率。原発は燃料費が安いから稼働させればさせるほど安価だということになっています。そこで、政府試算では原発の稼働率は80%という数字が前提となっていましたが、実際の稼働率を調べてみると、平均70%程度でしかなかった。実際より稼働率が高く盛られていたんです。また、原発は建設コストなど、1回の投資が大きいですから、長く使えば使うほど安くなるということで、40年間は稼働させるという前提に立って試算されていますが、04年当時に40年間稼働した原発なんてないんです。つまり、政府が示した数値は“仮定”の上に立った数値だったんです」
そこで、現実に近いコストを知るために、各年度の電力会社の「有価証券報告書」をもとに大島氏が引き出した数字はこうなった。〈原子力=8・64円、火力=9・80円〉(70年〜07年の平均値)
かろうじて原発が安い。だが、これだけでは済まされない。これは、あくまで原価に関わるコストから導き出された数字だ。この数字に、いわゆる「電源3法」など政府が原発建設の立地対策で税金から出動した金額を加えて計算すると、数字は大きく変わってくる。
「一般水力が3・98円、火力が9・9円、原子力は10・68円で、原子力がいちばん高くなるんです。さらに、原発には併せて揚水発電を作りますが、この揚水発電のコストも加えると、原発の発電コストは12・23円にもなるんです。さらに今後は、安全対策や保険などの補償費用などの面でも原発コストは上がるでしょう」(大島氏)
つまり、政府が希望的観測で出してきた数値で「原発は安い」という“神話”は成り立ってきた。電力会社が“神話”を国民に刷り込み、値上げが続く電気料金の負担を強いられてきたということになる。
事故コストまで安く見積もる
今夏に改訂される将来の原子力依存度の決定を前にして、政府は原発コストの見直しを行っている。
昨年12月に国家戦略室のコスト等検証委員会が公表 した報告書では、いくぶんマシな数値が並んだ。
しかし、野田総理の大飯原発再稼働決定を機に民主党を離党した衆院議員の平智之氏はこう異を唱える。
「まず政府推計では、世界で上昇している原発建設コストが無視されています。推計では、1基4200億円 の建設コストとされていますが、現実の数字では7200億円ほど。また、事故時のコストも安く見積もられており、推計では、福島第一原発事故をモデルに5・8兆円としていますが、再稼働を決定した大飯原発で事故が発生した場合はこんなものじゃありません。とりわけ、あの大きな琵琶湖が汚染源となる可能性もあり、今度は滋賀・京都・大阪にまで及ぶ大都市災害になりかねません。事故による損失は推計の10倍規模になるでしょう。加えて、使用済み核燃料の最終処分費用が安く見積もられているなど、現実に近い数字で再計算した場合、原発の発電コストは8・5円高の17・4円になります」
真面目に計算すれば世間で喧伝されているところの2倍以上。しかも、平氏によれば20円を超える試算もあるという。
東京電力の西澤俊夫前社長が電気料金の値上げを発表した際に、「(火力発電の)燃料費の高騰」なんて言い訳していたが、デタラメではないか。さらに、「電力事業者の権利」などと言っていたが、“ウソつき”にそんな権利があるわけもない。
前出・平氏もこう批判する。
「原発の発電コストは、1時間当たり1キロワットの発電量を原発の全発電量で割り算してはじき出すのですが、推計では分子の数字をなるべく小さくしつつ分母の数字をなるべく大きくなるように積み上げている。紙上での計算ではいくらでも値段を下げられますから、推計値はきわめて恣意的・意図的な数字と言っていい。とんでもない話です」
6月27日に、全国の電力会社が一斉に行った株主総会では、一般株主の提案は全て否決され、相変わらず“普通の会社”でないことを見せつけた。
前出・大島氏も半ば苦笑してこう話す。
「原発は止めていても金がかかる設備なんです。電力会社として動かしたいのはわかる。しかし、稼働していないのに金ばかりかかる施設というのは経営を圧迫する不良資産なんです。普通の会社なら早めに処理するんですが、それができないという意味では、多重債務者みたいなものですね。電力会社単体でできないというのなら、政府がスキームを組んで主導してやるしかないんですが‥‥。本当に再稼働なんかしてる場合じゃないんですよ」
原子力の常識なるものをめくればめくるほど、ウソに塗り固められていることがわかる。こうしたウソで丸め込んで国民を危険にさらす、野田総理の罪はきわめて重いだろう。