夜になってひっそりたたずむ小料理店を発見すると、「これはステキなおかみさんがいそうだな」という予感がみごと、的中した。
「ちょこちょこと料理を出してもらいながら、和服のママの話を聞いて。結局、名物のカニを食べることもなく、ただ長居したいがために強い酒は飲まず、ひたすらウーロンハイを流し込んだ。いつの間にか他の客は帰り、店内は僕と2人だけに。もしこのまま“大人の関係”になっても‥‥というステキな一夜でした。温泉地に行ったのに、風呂には入りませんでしたが」
ここに限らず、温泉地に行って温泉に入らずじまいだったことは何回かあったという。さらには、
「その昔、東北を列車で旅していた時のこと。スナックで飲みすぎて、予約したホテルの場所がわからなくなったことがありましてね。適当に見つけたホテルだったので名前も覚えていなくて、寒風吹きすさぶ中、ただ、『503』というホテルの鍵だけを握りしめて、結局1時間くらいぐるぐる回って、ああここだった、と(笑)。そんな体験もありました」
居酒屋で食を堪能したあとは適当なスナックを探す。列車内での酒とチーカマといい、出張サラリーマンの行動と何やら似ている‥‥。
「僕は旅をするとたいてい、地元のスナックに立ち寄ります。田舎のスナックってね、その町の経済状態がわかるんですよ。で、(ママさんや客が)『昔はよかった!』なんて言う。『じゃあ、今は?』と聞くと、『それなりに楽しくやっている』と言う人もいれば、『人生を間違えちゃったよね~』なんて言う人もいて、そういう人たちの歴史を聞くのは楽しい。特におばさんたちは歯に衣着せないし、決してキレイごとは言わない。そこに恨みのようなものが混じっていたりすると、なおシビレます(笑)。できればある程度、年を取ったママさんのいる店を選び、人生を聞きながら飲む。それがスナックでの最大の楽しみ方。だから、カラオケがあって若いお姉ちゃんがいて、若者が集まるような店にはまずいかない。そうなると必然的に、一見入りづらそうなひなびた店になる、というわけです」
じゅうたんのような生地の衣装をまとったママがいる根室のスナックでは、
「あそこはスゴかった。ママに『私の人生、こんなんじゃなかったんだ』と、切々と語られて。あれは酔っ払ったなぁ」
ひなびたスナックにこそ、呑み鉄の心を揺さぶるリアルなドラマがあるというわけなのだ。
ただ、「一見さん」である以上、そこにはアタリもハズレもあるはずで、能登半島にあるスナックでは「財布を落とした」と主張するヨッパライと、酒を呑まずにカラオケだけ歌って結局、1000円置いて帰った、ぐでんぐでんに酔ったオヤジ2人に翻弄され、
「その客を横目に、地元で取れた魚のみりん干しをつまみながら、ママと呑んだんです」