ここで森氏が麻原死刑囚の「重度な昏迷状態」について口を挟み、補足解説した。
「つまり弁護団としては、控訴趣意書を出せないんです。なぜ出せないか。控訴趣意書は本人に控訴するという意思がないと書けない。でも麻原は、まったくコミュニケーションができないんです。『治療させてくれ』と弁護団は申請したんですが、(裁判所が)受け付けない。弁護団は自分たちで精神科医を呼んで、診断書を手に『もう一度、精神鑑定をしてくれ』と。その結果、裁判所は(精神鑑定に)応じます。しかしどんな内容だったかというと、『麻原は詐病である』。つまり、精神昏迷を装っている、と」
さらに森氏は、その判断の「根拠」について、次のように切り込む。
「例えば、こういった描写が(調書に)あります。この精神科医は3日間、麻原に面会したんです。1日目、麻原の目の前でボールペンを揺らすんです。でも麻原はまったく反応しない。2日目、同じようにボールペンを振ったら、麻原はそれを握った。精神科医が引っ張ったら、麻原は握ったまま離さなかった。つまり『この人はボールペンを握る能力はあるのに、1日目はそれを隠していた。実は装っていたんだ』という理屈なんですよ。納得できます?」
つまり、麻原死刑囚は「拘禁障害」の症状を呈しているのであって、訴訟能力はある。控訴する気がないのではない。そしてアーチャリーともども、控訴棄却を裁判所による「だまし討ち」だと批判したのだ。
アーチャリーは先の著書でこう書いている。
〈父が事件に関与したのかについて、今でも自分の中で留保し続けています。(中略)父は事件に関与したのかもしれないし、していないのかもしれない〉
彼女にとって「オウム事件」はいまだ納得できない事柄であり、納得の鍵になると信じるのが、麻原死刑囚の「治療」である。
森氏はこの件について、熱弁を展開した。
「まずは麻原を治療したうえで、あの事件は何だったのか、なぜ(一連の事件を)指示したのか、しっかりと解明していかなければならない。でなければ何の教訓にもならず、このままだと再発防止すらできないんですよ」
アーチャリーがこれに呼応する。
「昨年、(精神科医の)先生が『あなたのお父さん、半年もあれば治してあげられるのに』と。私はぜひとも治療をしていただきたいと思っています。そのうえで、何が起こったのか、きっちりさせたいです」
アーチャリーと森氏は、死刑執行の日を待つ麻原死刑囚の再審の可能性を捨てていないのである。