2人の相似性も手伝って「絶歌」読了後、私は自らの体験を元に「絶歌」を書き直したい欲望にとらわれた。もちろん「書評」という体裁になることは当然だとしても。執筆にあたって、神戸の事件についてのあらゆる書籍、犯罪心理学、精神分析学を読むことになった。が、どこまで私の中で「酒鬼薔薇聖斗」が「像」を結んでも、「私」を超えることはできない。一方、「元少年A」はHPを開設していた。まさに「ダメもと」でA氏の「正体」に触れるべく、そのHPを通じて「工藤明男」の名でこう呼びかけたのだ。
「かつて、私も犯罪に手を染め“少年A”として、少年院に入院していた過去があります」
そして「工藤明男様 初めまして、元少年Aです」という返信が来た。
「同時期に鑑別所に入っていたことも、その後作家になってこうして言葉を交わせたことも、なにか“数奇な宿命”のようなものを感じずにはいられません」
と接触したA氏は応え、一連のやりとりを「僕のHPで公開させていただきたい」と提案してきた。私は公開にあたってのルールを提案し、了承するA氏のメールはこう結ばれていた。
「陽の当たらない場所で生きる者同士、互いに心のジッパーを下ろして忌憚ないやりとりができればと願っております」
こうして相互に質問を送り合うこととなったのだ。
「僕は自分のことをはっきり『ニセモノの表現者』だと割り切っています。ゼロの状態、白紙の状態からものをつくりあげていく能力は、僕にはないのです。そのことに劣等感を持っています」
というA氏。「絶歌」発売後の、15年9月に「女性セブン」に住居を直撃されてからは、「都内ビジネスホテルを転々とする生活を送っています」という。朝9時に起床し、ランニング。腕立てなどの筋力トレーニングを行い、朝昼兼用の食事を摂る生活を送っていると明かした──。
詳細は拙著「酒鬼薔薇聖斗と関東連合」を読んでいただきたい。しかし、A氏が語る将来の夢は印象的である。
「僕は『表現者集団』を作りたいのです。過去に傷があったり、心に病を抱えていたり、様々な理由で正規の社会のレールからは外れた人たちの中から、表現へのあくなき探求心と情熱、何より、奈落の底で叫んだ時にその声がちゃんと地上にまで届く声量を持ったメンバーを選び、潰れた工場を買い取って共同生活を送りながら表現活動を展開し、機関誌も発行して自らの手でグループのプロデュースも行い、育てていきたいと考えています」
これは誰の目に見ても「カルト集団」だ‥‥そう思った私は、薄ら寒さを覚えたのだった。
■柴田大輔(ノンフィクション作家):ペンネーム・工藤明男として刊行した処女作、「いびつな絆 関東連合の真実」(宝島社)は17万部のベストセラーになる。本作より、本名を明かす。関東連合元リーダー。ITや芸能の分野で活動後、警察当局に関東連合最大の資金源と目されていた。「いびつな──」刊行と同時に、暴対法における保護措置により保護対象者に。現在は、執筆活動を中心にスマホアプリの開発・運営をしている。最新作「聖域」(宝島社)では「関東連合の金脈とVIPコネクション」を描く。