プロ野球オフの最大イベント、ドラフト会議。球団どうしのさまざまな駆け引きが行われるその席で、前代未聞の「事件」が起きていた。「超変革」2年目突入に向けての重要な戦力を確保すべき阪神に、ファンが聞いたらアキレ返る「選択」が行われていたのである。
10月20日に行われたドラフト会議は、かつての野茂英雄、小池秀郎の8球団を超える史上最多の競合も予想されていた創価大の田中正義(22)が目玉だった。が、今春に痛めた右肩不安からか、指名は5球団。ソフトバンクがくじを引き当てると、史上初の外れ1位で5球団が競合した桜美林大・佐々木千隼(22)の交渉権をロッテが獲得するなどのドラマがあった。だが、会場で大きなどよめきとブーイングが起きたのが、阪神の1位指名。田中でも佐々木でもなく、ほぼ無名の内野手・大山悠輔(21)=白鴎大=に白羽の矢を立てたのだ。
当日のスポーツ紙の予想は全紙が佐々木。まさにサプライズ指名だった。関西スポーツメディア関係者は驚きを隠さない。
「佐々木が指名を待つ桜美林大には多くのトラ番記者が詰めかけましたが、大山と聞いたとたん、アキレた顔で一斉に会場から出て行き、急いで栃木の白鴎大に向かいました。それほどのサプライズだった。他球団スカウトにとってもこの指名は予想外だったようで、『阪神はどうした?』『何があったの?』と、半ばバカにしたような反応でした」
この世界に「たられば」は通用しないが、もし佐々木を1位指名していれば、外れで5球団も競合した即戦力評価の高い投手を単独指名できたことになる。しかも他球団スカウトの話を総合すると、大山の上位指名を予定していた球団は一つもなかった。さる球団のスカウト関係者も口をアングリさせて、
「大学日本代表で4番に座る内野手ですが、打撃は粗くて穴が多く、驚くほど飛ばすわけでもありません。一昨年の巨人のドラ1、岡本和真(20)より下のレベルでしょう。高校までは投手で肩は強いですが、守りは三塁、一塁しかできません。巨人が外れ1位で指名した中京学院大の吉川尚輝(21)と、中日が2位指名した日本大の京田陽太(22)は上位で消える可能性が高かったんですが、大山はよくても3位指名候補の評価でしたね」
それゆえ、ドラフトに詳しいファンやトラ党からは、「史上最大の謎のドラフト」と揶揄され、スポーツメディアにも次から次へと「これが阪神ドラフト大山1位の真相だ!」などという記事が出たほどだ。
匿名を条件に、阪神球団の内部事情に詳しい球界関係者が明かす。
「前日の夜中2時に金本知憲監督(48)が資料を見直して考えを変えた、という記事がありましたね。ウイークポイントは野手で、投手は外国人でカバーできるけど、生え抜きの長距離砲候補は毎年出ないし、来年のドラフトは野手の候補が少ないから満場一致で決めた‥‥と、そんな金本監督のコメントも出ていました。でもよく考えてみてください。外国人でカバーするのは、大砲でしょう。前日のスカウト会議では、1位指名は佐々木と決まっていたんです。金本監督はフロント、スカウトとの食事会をして二次会で酒まで飲んでいるのに、ほろ酔いで夜中に決断を変えるなんてことはありませんよ」