「記録より記憶」だと思う
体的には今も大きい人はいるけど、大きいだけじゃダメなんだ。
貴乃花さんとは、何かが違うよね。「俺が相撲を背負って立つ」という気持ちが欠けてるんじゃないの。「ここは日本だ、俺の土俵だ」という気持ちがね。貴乃花さんは、そういう気持ちを常に持ってましたよ。それをヒシヒシ感じた。
最近の力士には、負けたとしても「ちくしょう! 次は絶対、やってやる!」という気迫が出るような勝負をしてもらいたい。
相撲部屋に生まれた若貴は違うのかな。伯父さんもお父さんも名力士で、「出世しなきゃ」というプレッシャーは相当なものだったと思うよ。
今、大関昇進目安が3場所通算38勝と言われてるけど、貴乃花さんなんて、優勝6回しても横綱昇進できなかった。今は基準が甘すぎるなんてものじゃないよ(笑)。
もしも、現役時代の俺が白鵬と戦ったら?
それはどうなったかわからない。白鵬が「若貴兄弟とハワイ出身の曙、武蔵丸と対戦したかった」と言ったらしいけど、今、俺みたいに突っ張って、そのまま土俵の外に吹っ飛ばすみたいな勢いのある押し相撲の力士がいないよね。
白鵬は困ってるんじゃないの。次の横綱が出てこないから。競争相手がいないとモチベーションが上がらないんじゃないかな。
あの頃は俺と貴乃花さんが目立ってたけど、今と違って、誰が優勝するかわからなかったよね。
曙の通算優勝回数は11回で、ライバル貴乃花の22回とはダブルスコアの差をつけられてしまった。ところが、曙は横綱としての価値を決めるのは優勝回数ではないと言う。
辞めて10年以上たって、皆さんの記憶にどれだけ強烈に残っているか。「記録より記憶」だと思ってます。それが力士にとって、いちばん価値のあることじゃないかと。勝ち星の数とか、優勝回数だけじゃない。勝ち負けだけ考えたら、横綱なんて長く務められないよ。
土俵上の戦いは、観てる人とやってる力士とのギャップがありすぎる。なかなか言葉で説明するのは難しいんだけど、強いてひと言で言うと「魂のぶつかり合い」かな。
俺のオヤジはタクシーの運転手だった。必死でこの俺を育ててくれたよ。師匠は外国人初の親方(元高見山)。日本という国、そして相撲の何たるかを教わった。
その受け継がれた魂の全てを土俵に持っていって、相手に思いっ切りぶつかるんだよ。
あの頃は、ギラギラした仕切りだけでもお客さんが沸いていた。やっぱり、目に見えなくても、お互いの魂のぶつかり合いは感じてもらえていたと思う。