68年12月10日、府中刑務所裏で、偽造白バイが日本信託銀行(後の三菱UFJ信託銀行)国分寺支店から東京芝浦電気(現在の東芝)府中工場へ向かう現金輸送車を停車させた。「ダイナマイトが仕掛けられているかも」といい、ニセ白バイ隊員は同乗していた銀行員らを全員避難させ、自分で輸送車を運転し逃走。小金井の団地駐車場に3億円の入っていた空のジュラルミンケースが残されていた。
鮮やかな手口の犯罪だったが、3億円強奪犯はまだ捕まっていない。
だが困った立場に置かれたのが輸送車同乗4人の日本信託銀行員だ。
1970年7月2日号では、当事者から話を聞き出した。
〈関谷量一さん(32・当時)=現金輸送車の運転手=は、いささか詠嘆調でこう語る。
「いまでも事件の夢を見るぐらいなんですよ。大切な人の金を預かる人間が、あんなふうに奪われちゃったんですからねぇ…。ホントに申し訳なく思っております」〉
それだけに、貯金者や一般市民からの情報があれば「ワラをもつかむ気持ちでみずから確認に出かけたこともしばしば」という。同乗者のひとりである財務相談員の古川淳さん(28・当時)は「いまの段階で自分の気持を話すのは会社に申しわけなくて。でもわたしたちのこの気持はいくらお話してもわかってもらえないんじゃないでしょうか」と沈痛な顔つき。
彼らの上司である国分寺支店松本実次長は「妻子もちの後の2人は、自分だけじゃなく、奥さんや子供さんまで噂になるから、気の休まるヒマがないそうです」と同情したが……。
保険会社が全額補填したので被害者がいないという、この強奪事件。時効が成立し、迷宮入りしたのである。