まだまだいける日本の技術
─ただ日本のメーカーがテレビの生産をやめたというニュースを見ると、モノづくり日本は沈んでしまったかと思ってしまいます。
なるほど、そうきましたね。今ね、私は理系の大学生を相手に講義をやっておりますが、この前、日本の技術者が日本の企業で十分な役割ができないから韓国のサムスンに引っ張られていったという体験談をもとに、将来の技術者としてどうするか、と議論をさせたんです。
─日本の技術流出は深刻な問題ですよね。
はい、そしたらね、サムスンのようなやり方はうまくいかないと思うと答えた学生がいたんですよ。つまりね、サムスンは日本の優れた技術者を引き抜いているわけです。これは、サムスンがみずから技術を開発しているのではなく、技術を持っている人をヘッドハンティングしているだけだから、会社としての技術開発能力に結び付いていかない。そして、日本に追いついたところで、ブレーキがかかるはずだと言うんです。
─なるほど、鋭い!
でしょ、事実、日本のメーカーにいた人が韓国に行って、技術指導する時に技術者にとっては訴訟リスクというのがあるんです。つまり、その技術者は日本の企業でたくさんの特許を取っているわけで、その特許を韓国に行って教えたら特許の侵害となり、元いた会社から裁判を起こされかねない。だから技術者は、自分が日本の企業で開発した技術は韓国では教えられないの。すでに発表されている技術をこう組み合わせると新しいことができるという教え方なんです。これなら特許には抵触しませんが、既存の技術だけではやはり限界が出てくるわけなんです。
─日本製品は“ガラパゴス”だと批判もあります。
それはそう、日本国内だけがマーケットなのが問題だった。ただ逆に、ガラパゴスって何かというと、特定進化、その島の中で独自に進化したということでしょ。日本は1周先回りなんです。他の国がこれから追いついてきて、さまざまな技術を使うようになると、日本の技術がとっくにそこに到達していることを知って、「スゲェ」となるんですよ。
─ガラケーはクールだと。
そう。ただし、反省点もあります。アップルのiPhoneを日本の企業が分解したら、「えっ、この程度の技術なの」とアッケにとられたというんです。日本の企業ならすぐに作れるような技術ばかりだったんです。どうも日本は、先進の技術を、みんなが使いやすく、かつおしゃれなデザインで作るというというところが欠けている気がします。これから先、技術力で生き延びていくには、やはりそこは学ぶべきところでしょうね。