「食事はよく噛んで食べなさい」。そう言われて育った人は多いのではなかろうか。実はこれが、メタボ予防に寄与するというのだ。
先日、新潟大学、大阪大学、京都大学、国立循環器病研究センターなどの共同研究で、「咀嚼能率」の低下とメタボリックシンドロームとの間に関係があることが、世界で初めて明らかにされた(「Journal of Dentistry」)。よく噛んで食べる人は、速く食べる人に比べ、2型糖尿病やメタボリックシンドロームを発症しにくく、噛む能力が高いと糖尿病リスクが47%低下することもわかったという。
「早食い」や「噛まないこと」が肥満やメタボリックシンドロームとの関連が高いことは以前から言われていたが、この研究チームでは、「咀嚼」という口腔機能に着目し、咀嚼の大切さを訴えている。同様に咀嚼の重要性を指導している、芦屋歯科医院・芦屋宏院長もこう言う。
「最近の研究でわかったのが、ヒスタミンという脳内物質の食欲を抑える効果。ところがこのヒスタミンは外から取り入れることができず、噛む行為だけで脳の中でヒスタミンを増やすことができるんです」
現代の食生活は総じて高カロリーで、しかも柔らかいものばかりが増え、よく噛んで食べなくなった。そしてこれがメタボの大きな原因の一つとなったのだ。そこで、日本肥満学会は次のように提唱している。
「ゆっくりと食べること。こうすることで食品の味や香りを楽しめ、食欲をうまくコントロールできるようになる。そしてよく噛むこと、噛む回数を増やすこと」
ひと口食べるごとに30回噛むのが目標だというが、慣れないとこれがまたツライ。そこでまずは、噛む回数を5回増やすことから始めるといいというのだ。
さらに、料理にちょっとした工夫をこらすことで噛むことを意識するようになり、回数を増やせるようになる。「食物繊維の豊富な食品(ごぼう、れんこん、たけのこなど)、ナッツ類(アーモンド、クルミなど)、コンニャクなどの食事を選び、調理では野菜や肉を硬めに仕上げるようにする。さらに薄味に。そして食材は大きく、厚めに切る」──。日本肥満学会のガイドブックには、そう書かれてある。
慣れるまでが大変そうだが、特別に用意をするものもなく、費用もかからない。健康で長生きできるなら、一生懸命、カミカミしようか。
(谷川渓)