岡田氏が糸井の53盗塁をあまり評価しないのは、パでは一塁手があまりベースから離れず、一方でバッテリーが盗塁をそれほど警戒しないことにあるという。つまり、走りやすいのだ。さる球界OBは、これが岡田氏と金本監督の「野球観の違い」を表している、と指摘する。
「岡田氏は、盗塁は単純に数ではないと思っている。もともとパは大味な盗塁が多く、価値がない盗塁はナンボ走っても意味がないという考え。1点ビハインドの無死一塁で、ノーサインで走れるかどうか。糸井はそんな状況を読んで走るタイプではないから、よけいに金本監督に言いたかったんだろう」
さらに在阪スポーツ紙デスクは、「そもそも両者の野球理論は真逆だ」と断言して、
「岡田氏は守りから入る。阪神監督時代に勝利の方程式『JFK』を確立したのもそうだし、打率が2割5、6分そこそこでも守備が抜群にうまいバルディリスを使ったのも象徴的。1点を守り切る野球を目指したわけですが、金本監督は『1点取られたら2点取ればいい』という野球をする」
再び、岡田氏の著書に戻ろう。今春のキャンプを見ての率直な感想として、
〈二遊間の選手が多過ぎること。二遊間で7人ぐらい守っていた。上本博紀、板山祐太郎、植田海のほか、キャンベルもやっていた。新人の糸原健斗、鳥谷敬、北條史也。ファームには西岡剛、大和もいる〉
多くの選手で一軍レベルの競争をするのは悪いことではないと言いつつ、さらに続ける。
〈キャンプでずっとこれをやっていたら、守備の技術は伸びない〉
二塁手として85年にゴールデングラブ賞を受賞した岡田氏は、中堅から捕手を結ぶ「センターライン」に強いこだわりを持つ。
「二遊間の連係は大事だから、キャンプからある程度、レギュラーを決め、何回も何回も併殺プレーの練習を重ねて呼吸を合わせろ、というのが岡田氏の意見。ところが金本監督は、打撃がいいからという理由でいろんな選手を使う。決めきれないんです。岡田氏はそれが不満」(球団関係者)
さて、昨年も試合を見てはたびたび「アレはアカン」を連発していたという岡田氏だが、「阪神監督と主砲」の関係だった時代、もともと金本監督とは蜜月状態にあった。特に金本監督の「連続試合フルイニング出場」の世界記録がかかった04年は岡田氏の恩情に助けられた、と金本監督は感謝の念を抱いているという。
「左手首の軟骨剥離骨折で、痛くてグローブもはめられない。走れないし、痛み止めもまったく効かない。そしたら岡田監督が『ええやん。出られるやろ』。『無理です』と言ったら、『打席に立っとるだけでええし、守備で打球来たらセンター赤星呼んどけ』と」(スポーツライター)
そして、みごとに世界記録を打ち立て、それが復調のきっかけになったのだ。