まさにV字回復と言うにふさわしい騎手が2人、目をみはる騎乗を見せている。豪腕と称されながら失速、低迷。そして今年、しんがりから一気にまくるかのような活躍で、オイシイ馬券を演出しているのだ。
ここ数年の鬱積を晴らすかのように勝ち星を重ね、4月2日現在、34勝でリーディング3位。美浦トレセン関係者が、
「昨年の89勝を大きく上回るペース。4年ぶりの年間100勝超えは確実でしょうね」
と称賛するのが、内田博幸(46)である。V字回復を果たした要因はどこにあるのか。美浦トレセン関係者が続けて言う。
「戸崎圭太(36)との関係ですね。厩舎サイドやサークル全体が『戸崎、戸崎』となびいているでしょ。同じ南関東からJRAに移籍した先輩としては、忸怩たる思いがあったんですよ。アッという間に追い越され、去年なんか倍以上の差をつけられましたからね」
昨年、187勝でリーディングトップだった戸崎は今年、内田の後塵を拝している。
その忸怩たる思いを解消するきっかけとなったのは、昨年暮れの東京大賞典。アポロケンタッキー(5番人気)での勝利だった。競馬ライター・兜志郎氏が振り返る。
「武豊(48)騎乗の1番人気アウォーディを潰してみせた勝利後のインタビューで『戻って来ました、この大井に!』と喜びを表していましたが、復活宣言をしているように思えました。このレースには、戸崎もコパノリッキーに騎乗していましたが、有無を言わさず4コーナーでかわしていった。先輩の意地を見せつけた騎乗ぶりには、見ているほうもシビレましたね。この勝利は、間違いなく自信につながったと思います」
その騎乗ぶりに幅が出てきたことについても、
「近年は正攻法で好位につけ、直線でジリジリ伸ばす騎乗が目立つこともあったが、今年に入り、『へぇ、こんな乗り方もできるんだ』とビックリさせるような騎乗ぶりも披露しています」(トラックマン)
例えば3月4日の中山・4歳以上1000万下牝馬のダート1800メートル戦。メリーウィドウ(5番人気)に騎乗した内田はペースが遅いと見るや、向こう正面で猛スパートを開始。15番手から3コーナー前で一気に先頭に立ち、そのまま押し切ってみせたのだ。まるで12年の皐月賞、有馬記念のゴールドシップを彷彿させるような乗り方で、見ている誰もがうなってしまったほどだった。
4月2日の阪神・マーガレットステークス(芝1400メートル、3歳オープン混合)での騎乗ぶりも光る。先行脚質のオールザゴー(3番人気)のスタート決まらず前に行けなくなると、無理せずにしまい勝負の判断に切り替えた。直線で最後方から来た馬を競り落としたあと、ゴール前では前を行くクインズサリナをきっちり差し切ったのだ。
これには馬を管理する矢作芳人調教師も「新境地を開いてくれた。これでNHKマイルカップ(GI)には3頭出しで臨めそうだ。内田にはオールザゴーかタイセイスターリーのどちらかに乗ってもらう予定」と大喜びだった。
「矢作師といえば、もともと生まれも育ちも大井競馬場。そんな境遇もあって、大井からJRAにやって来た内田を早くからかわいがり、頼りにもしていた。これからも矢作厩舎の馬に内田が乗ってきた時には注意が必要でしょう」(前出・兜氏)
さらに今年の内田で忘れてならないのは、人気薄の馬を勝利させ、穴を数多く提供していること。4月1日のダービー卿CT(GIII)を5番人気馬で勝ったのをはじめ、4番人気以下の馬で12勝しているのだ。この点が、人気馬で勝つことの多い戸崎やC・ルメール(37)との大きな違いと言えるのではないか。