もう1人のV字回復騎手、岩田康誠(43)も、昨年、68勝に終わったスランプから脱し、復活ぶりが著しい。22勝でリーディング9位(4月2日現在)という数字は驚くほどではないが、昨年、JRA重賞0勝だったのが、今年はすでに3勝しているのだ。
「ひとつ言えることは、木幡初広(51)や横山典弘(49)が、(騎手として活躍する)息子たちが脚光を浴びることで刺激を受けていること。岩田も自分の息子が2年後には競馬学校を卒業して騎手になるので、その時には一緒に戦いたいと思っている。その息子のためにも、立派な騎手になりたい、と思っているんです」(栗東トレセン関係者)
一時の成績低下の一因は、社台から距離を置かれたことにあるという。栗東トレセン関係者が続ける。
「(15年暮れの)リオンディーズの乗り替わりがかなりショックだったようです。ヘマをしてならしかたありませんが、新馬戦を勝ってM・デムーロ(38)への乗り替わりですからね。そのデムーロは直後に、朝日FS(GI)を勝った。外国人旋風に飲まれた感がありますが、あれでかなり自信をなくしていました。それがようやく吹っ切れたんでしょう。今年は『何でこんな馬を動かせるんだ』という“岩田マジック”が随所に見られますね」
3月26日の高松宮記念(GI)での、レッツゴードンキ(2着)のイン突きなどは、その最たるもの。デムーロに競り勝ったあのシーンを見て、今年の岩田の勢いを確信したファンは多いのではないか。
その前日、日経賞(GII)のアドマイヤデウス(3着)でも、豪腕は炸裂。10番枠から出るとすぐにインの3番手に入れ、直線でもそのまましぶとく粘り込ませたのだ。6番人気の馬をこうして馬券圏内に持ってくる、まさに“岩田マジック”の本領発揮だった。
その復活を後押しするような、強力なパートナーも存在する。言うまでもなく、皐月賞(GI)で、牝馬として69年ぶりの「快挙」が期待されているファンディーナだ。もし強力な牡馬勢を蹴散らすようなら、岩田も大きくクローズアップされることになるだろう。
さて、岩田を語る場合、かねてから物議を醸している、あの「トントン騎乗」に触れないわけにはいかない。長めに手綱を持って上体を起こし、脚を使って下から追いまくるスタイルだが、「馬の背中を痛める」「荒っぽすぎる」といった意見があるのは事実。兜氏が言う。
「今のところはズブい馬に騎乗した際や、ゴール前であとひとふんばりさせたい時には有効と見なされ、おとがめなどは受けていません。特に力のいるダートコースでは顕著で、それは岩田の成績を見てもハッキリしている。22勝中、12勝がダート戦なのです。そのいい例が、3月26日の中京・3歳未勝利混合ダート1400メートル戦。8番人気のルアで逃げてハナ差の1着に持ってきましたが、まさに真骨頂でした」
内田同様、地方から移籍した天才の馬券は、狙う価値十分なのである。