近年、改めて落語にハマり、2015年3月末、ついに立川談春さん独演会にて、しっかりと着物を召されて客前で落語を披露された殿と、こんなやりとりがありました。
「殿、勘のいいファンは、殿がまたどこかで落語を披露するんじゃないかと勘ぐって、殿とつながりのありそうな落語家さんの会に行くって動きになってます」
「鶴瓶とかか?」
で、あらまびっくり。そんな会話をした2週間後の2015年5月16日昼。松竹芸能さんの劇場、新宿角座で開催された笑福亭鶴瓶師匠の落語会にて、例によって何の告知もなく、まったくのサプライズの前座として登場された殿は、たっぷりと落語を披露されたのです。
いきなりの“生ビートたけし”に、100人程の観客がどっと沸き、驚きの歓声を上げたのは書くまでもございませんが、この日の殿は、談春さんの会に登場された時以上に気合が入っていました。
13時、まずは鶴瓶師匠が舞台へ登場され、フリートークでどっと笑いをとっている様子を楽屋のモニターでじっくりと見ていた殿は、
「お客に女多いな。まずいな。○○○の話ウケるかな」
と、“笑い声から推測できる客層”を感じとると、マクラで話される予定の中で、一番どぎついネタについてただちに心配をあらわにしたのです。
が、すぐに、
「もうこうなったらよ、ウケるまで徹底的にやってやるか!」
と、3秒前の心配をいとも簡単に払拭されたのでした。
で、鶴瓶師匠が20分程フリートークをされた後、殿の登場と相成ったのですが、殿はまず、楽屋での宣言どおりに少々どぎついネタから入ると、そこから先は、「オイラが修業時代に浅草で見た、奇人変人話」「長嶋さんの話」「ここがヘンだよプロレスラー話」と、たっぷりとマクラを15分程展開されて笑いをとると、本ネタ「寝床」へと入っていかれたのです。
が、この「寝床」、途中から「芝浜」に切り替わり、最後はまた「寝床」に戻るという大変イリュージョンな噺であり、舞台袖で聞いていた鶴瓶師匠は「おっ、芝浜に入った!」と驚かれ、横にいたわたくしに「これ、どっかでかけはった?」と、“一度どっかの客前でやったの?”といった質問をされてきたのです。
もちろんまったくの初おろしであることを伝えると、鶴瓶師匠は「へ~」と、いたく感心されていました。
結局、都合30分程舞台に上がっていた殿はその後、鶴瓶師匠との贅沢すぎるクロストークを終え、楽屋へ戻ると、モニターにて鶴瓶師匠の舞台を鑑賞されたのです。
そして、じっくりと語られ、笑いと感動が入り乱れる、“マンパワー万歳”の「鶴瓶話」に聴き入ると、
「鶴瓶はこれができるからすげーよな。俺はせっかちだからこれできねーもんな」
と、しっかり舌鼓を打たれていたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!