米国務省が中国人記者に「我々は尖閣と呼ぶ」断言
「諸外国はよけいな関わりを避けて突っ込みません」
過熱してやまない中国、韓国との領土紛争。いったい世界はどう見ているのか。まずは、アメリカの反応から──。
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8月28日、尖閣問題を巡り、アメリカ国務省の報道官と中国人記者との間で白熱したやり取りがあった。
中国人記者 アメリカにおける公式的な名称は何ですか。「釣魚島」ですか、「尖閣諸島」ですか。
報道官 我々は「Senkakus」と呼んでいます。ただ、領土問題に関しては日中どちらの立場も取りません。
だが、中国人記者はなおも食い下がる。
報道官 1960年に締結された日米安保条約の適用範囲内です。
中国人記者 この島々は日米安保条約の対象だから日本の領土だ、と認めているようなものだ。(どちらの立場も取らないと)言っていることが矛盾しているのではないですか。
報道官 尖閣諸島は1972年に沖縄に返還されてから、日本政府の管理下にあります。
それでも再三再四、同じような質問を繰り返す中国人記者に、報道官はうんざりした表情で質疑応答を切り上げてしまった。
このアメリカの姿勢について、国際事情に詳しいビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授が言う。
「基本的に領土問題は、当事者以外はとばっちりを恐れて中立的な立場を取るというのが、国際社会の原則です。ところが、その原則を飛び越えて中国人記者が突っ込んできたものだから、報道官もびっくりしたでしょうね。ヘタな言質を取られないよう、中立を強調しました」
だが、竹島問題については若干の温度差が見られた。8月15日にアーミテージ元国務長官ら外交・安全保障専門家グループが発表した、日米同盟に関する新たな報告書の中で、中立の原則を守ったうえで韓国に自制を求めつつも、日本には「歴史認識にしっかり向き合わなければいけない」との注文をつけているのだ。
政治部記者が解説する。
「李明博大統領は約4年半の在任期間でオバマ大統領と親しい関係作りに成功したが、日本の総理は1年ごとに代わってばかりで、緊密な関係を築けていない。だから日本に注文がついたのです」
足かせを避けて黙るロシア
日中韓の周辺諸国の対応はどうか。日本との間で北方領土問題を抱えるロシアは沈黙を続けている。
「ロシアのメディアは、尖閣に上陸した香港活動家の逮捕などは報じたものの、外務省の声明はおろか、政権中枢からの匿名コメントすら漏れてきません」(前出・政治部記者)
ロシア事情に詳しいジャーナリストの惠谷治氏も、
「確かに今回の領土問題でモスクワが何か発言したという話は伝わってきていない。もちろん北方領土問題を抱えているだけに、彼らにはそれなりの興味はあるだろうが、具体的に何か言うと、北方領土での足かせになりかねない。だから控えているんでしょう」
南シナ海の排他的経済水域などで、中国との紛争を抱えるベトナム、フィリピンからも、これといった発言は聞こえてこない。
「結局、諸外国はよけいな関わりを避けて、突っ込まないんです」(外信部記者)
8月28日、日本外国特派員協会で、海外メディア向けの記者会見が行われた。発言者は先頃、尖閣諸島に上陸した東京都議や荒川区議ら3人だ。
彼らは集まった報道陣に、中国が日本に贈った感謝状(尖閣諸島の項参照)のコピーを配布するなどして説明したが、
「ドイツの記者をはじめ、皆、興味深く見てはいたけど、特にそれに関する質問はありませんでした」(出席したジャーナリスト)
この領土問題、実は中国人や韓国人に比べ、日本人がいちばん関心を持っている、との論もある。再び田代教授が解説する。
「中国が絶対的に譲れないことを主張する際に使う『核心的利益』という言葉は、尖閣問題でも使われていますが、一方で非公式な場ですが、中国高官が『中国と日本とが尖閣諸島を共同開発してハワイのような国際的リゾート地にするのが両国に得だ』と提案するのを見たことがあります。日本の警戒感に比べ、中国には余裕が感じられます」
韓国サイドにしても、
「李明博大統領の竹島上陸への世論の支持は7~8割と高いですが、支持するかしないかと言われれば支持する、といった感じ。韓国から見ると、むしろ日本人のほうが興奮していると思います」(ソウル特派員)
それでも日本は毅然と主張すべきだろう。