とはいえ、記憶面だけでなく情緒面から衰えていく場合や、症状や進行具合が個々で異なるため、認知症を早期発見するのは難しい。「死ぬまで家族に迷惑をかけないために今すぐ知っておきたいボケない技術」(かんき出版)の著者で米山医院院長の米山公啓氏は、
「ボケが始まっていれば検査などでハッキリと結果が出ますが、初期では『物忘れがひどい』レベルとして考えてしまうのが一般的。しかもそういった症状は一度出てもしばらくして治まり、また突然出てくる場合が多いため、診断が難しい。なので『物忘れ』と『認知症』との違いはまず回数の問題と捉えるべき。一度や二度ならともかく、4回も5回も同じことを忘れてしまったら、それは物忘れの範疇ではありません。あとは夜騒ぐようになったとか、迷子になってしまうなどの周辺症状が出て初めて、家族が『認知症では?』と気づくケースが多いですね」
そこで築山氏と米山氏に、「日常生活に表れる初期兆候の危ないサイン」について聞いてみた。
【1】夜になってもなかなか寝つけなくなったらヤバイ!
「定年になれば会社に通う必要がなくなり、規則正しかった起床時間がまちまちになる場合があります。すると体内時計に狂いが生じる。朝起きた時の太陽の光は目から視床下部、脳幹に入り、体内時計をしっかりリセットしてくれますが、体内時計がズレることで認知症のスイッチが入ってしまうケースは多い。定年になったら目覚まし時計がいらなくなるのではなく、逆に定年になったからこそ時間管理の目覚まし時計が必要になるのです」(築山氏)
【2】風呂よりシャワー、と思ってきたらヤバイ!
「仕事をしていた頃は風呂好きだったのに、シャワーで済ませるようになったという人も危険信号。認知症になると、風呂に入ることを嫌がる症状が見られます。入浴は質のいい睡眠を得るためにもたいへん重要。ゆっくりと湯船につかり、一人の時間を満喫すれば副交感神経が優位に働き、脳内では神経伝達物質のセロトニンが分泌され、リラックス効果が生まれます。立ったまま浴びるシャワーは交感神経を優位に働かせるため、リラックスどころか緊張状態のまま風呂から上がることになる」(米山氏)
【3】5人以上の人間関係がなくなるとヤバイ!
「会社に行かなくなることで、周りの人間関係にも大きな変化が訪れます。そんな時こそ、5人以上の人間関係を保ったほうがいい。配偶者がいればまずは1人確保できるし、かかりつけの医師がいれば、体調の話をするのも立派な人間関係の一つです。あとは趣味や地域で誰か探してもいいし、それもなければ犬を飼えばいい。ペットのオーナーというフィールドが、新しい人間関係のドアを開けてくれるかもしれません。自分の持っているフィルターを客観的に通してくれる人間関係を作り、そういう人たちに聞きながら動くことが予防になります」(築山氏)
【4】前日と同じ服装で出かけるようになったらヤバイ!
「現役時代はおしゃれだったのに、定年後は毎日同じ服でも気にならなくなった。これも認知症によく見られる症状です。認知症になると相手、そして自分自身の服装にも関心がなくなり、『着られれば何でもいいや』と、前日と同じ服で出かけるケースが多い。脳への刺激で考えると、できるだけ服装は変えるべき。それが面倒になってきたら危険信号と考えていいでしょう」(米山氏)
【5】家の中にやたら小銭が増え始めたらヤバイ!
「これは買い物する際に計算することが面倒くさくなり、百円単位の買い物でもつい1万円札のような大きなお札を出してしまうことが積み重なってしまうからです。感情の中枢である大脳辺縁系は一度、『嫌だ』『面倒くさい』と認識してしまうと、それ以上の情報を遮断してしまいます。当然、上位の大脳新皮質も機能しません。認知症患者の多くが、何かあるとすぐに『面倒くさい』というセリフを口にしますが、釣り銭の計算もその一つです」(築山氏)