一時はすっかり患者数が減っていた梅毒の罹患者が今年1月から4月までに昨年より約2割も増加しているそうです。もともと、大都市圏で患者数が多かったようですが、最近では地方でも増えているそうですから注意が必要です。ここで質問です。
性病の代表でもある梅毒と淋病、気づきにくくて怖いのはどっちでしょう。
尿道炎である淋病の場合、排尿のたびに尿道に焼け火箸を通したような痛みを感じます。女性は自覚症状はありませんが、男性はウミが出てくるのですぐに気づきます。
淋病に限らず、梅毒、クラミジア、ヘルペスなどの性病はオーラルセックスでも感染します。相手の性器に接触した結果、病原菌が口内に感染するわけです。
風俗通いをする男性の中には「口なら大丈夫」と高をくくる人も少なくないようですが、決してそんなことはないのです。
ただ、淋菌はペニシリンや抗生物質を正しく飲めば一発で治ります。風邪の時の抗生物質でも治る場合があるように、さほど怖い病気ではありません。
かたや梅毒の場合、スピロヘータという病原体が原因となります。菌体の外側にある被膜構造が細胞を覆っており、非常に強い細菌で抗生物質があまり効きません。スピロヘータ感染で発病する病気としては、梅毒の他に回帰熱やライム病などがあげられますが、いずれも、治療がやっかいな病気と言えるでしょう。
梅毒が恐ろしいのは初期症状がほとんど出ないことです。感染後、数カ月から1年で発疹が出ますが、最初は皮膚かぶれと見間違うことが多いのです。第2期症状で全身のリンパ節が腫れ、発熱や関節に痛みを感じます。感染から3年以上たった第3期症状では顔や鼻がゴムのように膨れ、10年を経過した第4期症状では、臓器に腫瘍が出て脳や脊髄を侵され、最終的には認知症となります。
このように、病気が進むほど治りにくく、脳を侵されてしまうとワケのわからないことを言いだします。梅毒以外の性病はほぼ100%治りますが、梅毒だけは初期症状がなく、進行がゆっくりで、淋病とは比較にならないほど怖い病気なのです。
2016年11月末のデータによると、梅毒の報告数は40年ぶりに4000件を超えており、非常に増えています。前述のとおり初期症状が出ないことから、自覚のない潜伏患者を含めるとかなりの数になると思われます。大きなリスクを抱える病気なので、コンドームを適切に使うことに加え、簡単に遊ばないことが予防につながります。
ちなみに、尖圭コンジローマという性病があります。ウイルス性のこの病気は陰茎や亀頭、肛門、大陰唇、小陰唇、膣内などにイボができるのですが、このウイルスがウォシュレットでうつる可能性があります。処女や、5年以上セックスをしていない女性の肛門にできることもあるのです。なぜなら、女性には便秘が多く、ウォシュレットの刺激で排便しようと長時間当てた結果、ノズルの先端に付着したウイルスが飛び散り、デリケートな粘膜である肛門から感染してしまうのです。
なお、淋病やクラミジアなどの性病をもらった場合、完治するまでパートナーとの性行為は控えるか、コンドームを装着してください。自分では治ったと思っていても、パートナーにうつった結果、再び感染(ピンポン感染)することがあるのも、性病のやっかいなところなのです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。