火山灰の怖さは天明3年の浅間山の大噴火を見るとよくわかる。防災システム研究所の山村武彦所長が言う。
「大量の火山灰は成層圏の高い地点にまで達し、太陽光を遮断し、深刻な気象変動を起こしました。何しろ、夏に雪が降ったくらいですから。日本ではその後数年間、冷害が続き大飢饉を引き起こしました」
富士山が噴火すると、気象変動で農業に深刻な影響を与えるが、まずは首都圏への降灰の直接的な影響を見ていこう。防災ジャーナリストの渡辺実氏はこう言う。
「地震と火山灰。両者とも社会に著しいダメージを与えるが、決定的に違うのは地震が物を壊すのに対して、火山灰は破壊ではなく機能停止に追い込むことです。しかも、灰は磁気を帯びているためハイテク機器を軒並みダメにしてしまう」
オフィスは電子機器で満ちあふれている。
「窓を閉め切っていても火山灰の微粒子は入ってくる。オフィスのコンピュータはそのまま使っていると絶対、故障してしまいます」(山村氏)
さらに、航空機をはじめ交通機関も火山灰には弱い。
「1982年ジャワ島のカルングン山の大噴火では火山灰のため、B747のエンジンが4基とも停止し、あわや大惨事になるところでした。羽田や成田の飛行場も灰の堆積で閉鎖。電車も線路のポイント部分に灰が詰まるとストップしてしまう。新幹線もダメ。首都高や一般道も大量の火山灰で埋まる」(山村氏)
交通のマヒは流通のマヒを意味する。トラックによる食料や物資の輸送は滞ると見てよい。
まず第1に、「我が家だけでも被害をまぬがれる」には、水と食料品の備蓄は必須ということだ。米やパスタ、缶詰はもとより、レトルトや乾燥食材など最低1週間分は用意したい。
「火山性微動から噴火まで2週間ほど猶予があります。しかし兆候があってから買いに走るのでは遅い。店には長蛇の列ができて手に入らないかもしれない。水と食料は今から買いそろえておくべきです」(山村氏)
そして、何といっても深刻なのは電力である。
東京湾岸に点在する火力発電所のタービンも、火山灰で詰まって稼働しなくなる可能性が高い。さらに灰は電気をショートさせ漏電事故を起こし、変電所や発電所、送電設備に重大なトラブルを生じさせる。桜島ではわずか1センチの降灰で停電が発生している。都市機能の維持に必要な電力がブラックアウトすれば、あらゆるライフラインが危機的状況に瀕する。3・11後の計画停電どころではない悪夢の状況が、首都圏を襲うのだ。