わたくしの中で、「ビートたけしのファッション」と言って、まず思い浮かぶのは、殿が30代後半からかなり長きに渡って着用されていた「フィッチェ」というブランドの、大変派手なセーター姿です。
ちなみに殿は以前、2年に1回程のペースで、溜まった、主に「フィッチェ」等の服を弟子に譲り渡す“たけし・大バザー大会”を開催されていて、「よし! 好きなだけ持ってけ!」といった殿の掛け声を合図に、衣装部屋へ軍団若手が突入すると、殿の匂いがほのかに残るお下がり類を、むさぼり取り合う恒例行事がありました。
その結果、一時期、軍団の若手が皆、あからさまに服に負けている感たっぷりの、まったく似合ってない派手な代物を身にまとい、訳知り顔で歩き回るという、非常に“イタイ”事態が展開されたのです。
そんな様子を見た殿は、
「お前らはバカの七五三か!」
と、ため息交じりでツッコんでいました。
で、殿と服といえば、必ず思い出す夜があります。
数年前、殿と何気なく映画の話になり、
「今、骨のある映画評論家なんているのかよ?」
と問われたわたくしが、
「殿、います! 町山智浩さんという方が最高です」
と、熱烈に支持をしていた映画評論家の名前を出すと、
「じゃー今度、そのあんちゃんとよ、一緒に飯でも食うか」
となり、町山さんと親交のあった水道橋博士に連絡をとっていただき、あっという間に、殿、町山さん、博士、そしてわたくしの4人で、“噂だと日本一高い”と聞く銀座のフレンチレストランにて、食事会が開かれることになったのです。この時、〈日本一高い店ならば、きっと厳しいドレスコードがあるはず〉と、勝手に勘ぐったわたくしが「最低でも襟のついたシャツで来たほうがいいのでは」と偉そうにアナウンスしたため、3人とも小奇麗なカッコに、パリッとしたシャツを身にまとい、準備は万端といった感じで当日を迎え、銀座のレストランの前で殿の到着を待ちました。
店の前で待つこと15分、ほぼ時間どおりに殿の真っ白なイギリス産の、ど高級車が到着。「お疲れさまです」と声を上げながら、やたら重い後部座席のドアを開けると、サンダル履きに短パン&Tシャツ姿の殿が現れ、何食わぬ顔でレストランへ入っていったのです。
当時のことを何年かたって殿に、「僕らがちゃんとしたカッコで待ってたら、殿がサンダル履きに短パン姿で現れて、スーッと店に入っていったので、正直ズッコケましたよ!」と、当時の胸の内を報告すると、
「はっははは。まーな。俺はもう何着てどこ行ったって大丈夫だからな。だいたい服なんてのは何を着るかじゃなくて、誰が着るかなんだよ」
と、“人間・北野武そのものが1つのブランドでありファッションである”といった意味を存分に含んだ発言を、自信たっぷりに炸裂されたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!