全ての男たちの羨望でありながらその楼閣に立ち入ることは容易ではない。選ばれた地位と収入を持つ者だけが遊ぶことを許される街──それが銀座である。戦後ニッポンの繁栄を支えた巨大な歓楽街が今、新たな局面を迎えているという。根絶したはずの「みかじめ」が息を吹き返しているというのだが‥‥。
「ここ3カ月ほど、銀座では高級シャンパンが飛ぶように出ているって。いい女の子も増えているみたいだし、景気のいい話ばかりが飛び込んでくるね」
銀座評論家であり、現在までネットTV「ギンザワン」を10年以上継続する堂満謙一が言う。
時を同じくして7月3日、銀座5丁目界隈では、1平方メートルあたりの路線価が史上初めて4000万円を超えたことが発表された。バブル経済期でも到達しなかった地価の高騰で、街全体がただならぬ熱気に包まれているのだ。
だが、そんな活況に水を差したのが6月13日に起きた一件である。警視庁は恐喝容疑で國粹会若頭補佐の生井一家・梅木康明総長と組員ら7人を逮捕。
〈いまだ銀座に『みかじめ料』があったのか!〉
各紙がそんな論調で伝えたように、11年に暴力団排除条例が施行されて以降、銀座では「みかじめ料」という行為は根絶されたと思われていた。だが実際に梅木総長らは、09年頃から今年にかけ、少なくとも約40店から計約5000万円を取り立て、他に被害にあった店も合わせると1億円を超えていたと警視庁は指摘している。
さて、銀座に根を下ろして60年という奥澤健二は、現在は「銀座社交料飲協会」の副会長として、街の自警に努めてきた。奥澤をモデルに、松方弘樹主演で「銀座並木通り クラブアンダルシア」が映画化されたこともある街の重鎮だ。
奥澤は、永遠の命題として「みかじめ」に向き合ってきた。
「暴排条例以降は、築地署からも『みかじめを払った店も逮捕しますよ』とか『店に客で来させたら逮捕します』と言われている。そういう連中が店に入ろうとしても丁重に断り、向こうも『わかった』と引き下がってくれる。それでも『飲ませてくれない?』と来たら、『あんたは、この稼業で顔が有名だからダメ』と言ってやるよ」
奥澤が、こうした連中を遠ざける理由はもう1つある。それは、古くは「夜の蝶」と、近年では「嬢王」と呼ばれるホステスたちをガードすること。
「まず女の子が席に着くのをイヤがるし、万が一、ヤクザとくっつく可能性もある。向こうはカネを持っているし、優しい言葉で女の子を口説くんだから。こっちが一生懸命スカウトした女の子を、あっさり持って行かれても困るしね」
巨額が動く街には、それに相応して女たちもうごめいている。