以前、こちらの連載で、殿が自宅で2日かけて“たけちゃんのお手製カレー”を煮込み、「お前、カレー煮込んだから、食べに来るか?」とお呼ばれしたので、急きょスクーターで殿の自宅へ直行し、カレーにありついたエピソードを書きました。実はこの時、殿の自宅へ向かう途中、信号待ちをしていると、後ろから車に追突される事故に遭っていたのです。追突された勢いで、スクーターともども左横へ倒れたわたくしは、左ひじから軽く出血、スクーターは左側のプラスチックカバーが損傷と、大事には至らない程度のダメージを負いました。そして、ぶつけた側のドライバーさんがすぐに全面的に謝罪をされ、警察を呼んでの事故証明といった流れになったのです。ところがわたくしは、“カレーを食べさせるべく待っている殿を待たせてはいけない”と、強く思い、「とにかく急ぎますので、警察はいいです。あとで電話しますので、ひじの傷は大丈夫ですから、スクーターの修理代だけお願いします」とだけ告げ、相手の電話番号をもらい受けると、傷ついたスクーターに再びまたがり、殿の自宅へ急ぎました。そして、なんとか無事、たけちゃんのお手製カレーを何事もなかったように頂いたのでした。もちろん、殿に事故のことなど語るはずもなく‥‥。
この話、何が言いたいかと申しますと、今から15年程前、あの頃のたけし軍団には“とにかく殿に心配をかけてはいけない。迷惑をかけてはいけない”といった空気がはっきりとあり、たとえ自分に非がまったくなくても、何かトラブルに巻き込まれた際には、報告することなく自分で処理することが当然といった考え方を、軍団は皆もっていたように思うのです。
特に、軍団の若手には確実にそういった気持ちがあったはずです。とにかく、殿にマイナスな案件の報告をするのがことのほか嫌でした。ある先輩も、タクシーで帰宅中、後ろからオカマを掘られる事故にあったのですが、やはり「いいです。僕は大丈夫ですから」とタクシーを降り、軽いムチ打ちを無視して、次のタクシーに乗り込み、何事もなかったように帰宅したといいます。その先輩もやはり、「いや~、何かさ、もしこれで殿に迷惑かけたら悪いと思ってさ」と、さらりと言い放っていました。
で、少し前に、先にあげたカレーの時の事故の話を笑い話に変えて殿に報告する機会があったのですが、話を聞いた殿は、
「何だそれ? ちゃんと事故証明取って、処理してりゃーよかったのに。バカだな、お前は」
と軽くあきれた翌日、
「北郷のやつ、昔、俺のカレーがどうしても食べたくて、事故に遭ったのを隠して食べに来てたらしいな。あいつ食い意地が張ってんなー」
と、周りに話していたそうです。いや、殿、あれは別にカレーがどうこうでなく、迷惑をかけたくないといった、わたくしの素晴らしい志から出た行動だったのですが‥‥。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!