「あいつは凄いぞ。初めて新車買う時、ディーラーの人に『あの~、下取りの時高く買いとってもらえる色って何色ですか?』って聞いて、好きでも何でもない色の車乗ってたんだからな」
「軍団が2チームに別れて山の中でロケやった時よ、義太夫がたまたまポケットに入ってたせんべいをかじったら、その音を察知した腹ぺこのラッシャーが、2キロぐらい先から歩いてきて、『義太夫さん、今、何か食べませんでした?』って聞いてきたんだから」
前回からの続きになりますが、殿が軍団さんとの蜜月な日々を語る時、一番よく登場する名前は、間違いなくラッシャーさんです。
端っこの末席にいるとはいえ、同じたけし軍団として、殿の記憶に強く刻まれているラッシャーさんを、本当にうらやましく思います。
好きな人の記憶に刻まれない人生なんて、そんなもの、何が人生でしょうか! つい興奮してしまいました。すいません。
で、殿がラッシャーさんの話をされる時、必ず出るエピソードが「ウォークマン事件」です。
殿が普段使用されていたウォークマンを、ラッシャーさんが一時預かり、また殿に戻した時のこと──。
「何かウォークマンの調子がおかしいからよ、『おい、ラッシャー、これぶつけたりなんかしなかったか?』って聞いたら、『いえ、そんなことしてません!』って、やたら強く言うんだよ。だけどやっぱりなんかオカシイんだよな。それでウォークマンを置いてトイレ行って出てきたら、ラッシャーの野郎がトイレ前で土下座してんだよ。『何やってんだ、お前?』って聞いたら、『殿、わたくし、嘘をついておりました。申し訳ございません!』って床に頭をこすりつけながら謝ってんだよ。どうやらあいつ、ウォークマンを落としたらしいんだけどよ、何もウォークマン1個でそこまでやることねーだろ。あれには笑ったな」
とにかく、殿の中でラッシャーさんのネタは尽きることがありません。
これはわたくしの勝手な分析ですが、リアクションを激しく求められる、かつての「ガンバルマン」や「お笑いウルトラクイズ」などの現場で、時おり、“これは誰がやっても面白くならないだろう”といった、芸人泣かせのシチュエーションでも、いつだってラッシャーさんは粘りに粘り、最後は必ず爆笑をかっさらってきたのです。そんな姿を何度も目のあたりにしている殿が、弟子の中でも、“確実にやってくれる弟子”として、信頼を寄せているからこそ、ラッシャーさんネタの数が半端ないのではないかと強く感じます。簡単に言ってしまえば、殿はラッシャーさんが芸人として大変好みなのです。
ちなみに、ラッシャー板前さんが、一番最初に殿から付けられた芸名は「力道山」にあやかった「力動川」です。そんな元・力動川さんの結婚披露宴の時、殿はかつて見せたことのない、泣かせるスピーチを披露されたのでした。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!