2016年の「ビートたけし“ほぼ”単独ライブin浅草公会堂」が大盛況のうちに幕を閉じ、〈殿が修行を積んだ街・浅草で一緒にライブができてホントよかったな~〉と、1人勝手に余韻に浸っていたわたくしですが、その昔、殿からじかに浅草を案内されるという、大変ぜいたくな日がありました。
あれは15年以上前、殿の付き人になり2年目あたりの、まだ殿と会話らしい会話をしたことがなかった、たけし軍団カーストの中でも、下から3番目に位置していた頃でした。
その日、殿の仕事は、かつて修行を積んだ「浅草フランス座(東洋館)」にてテレビ収録を1本済ませると、珍しく日が暮れる前から体が空いた殿は、“まだ酒を飲むには早え~し、どうすっかな~?”といった感じで、やや思案すると、思いついたように、
「俺はちょっと浅草をブラブラして帰るから、もう帰っていいぞ」
と、マネージャーに告げたのです。そして、付き人のわたくしに、
「お前、付き合うか?」
と、実にフランクに誘ってきたのです。何度も書きますが、この時のわたくしは、たけし軍団余剰人員の最若手でしたので、いきなりの直のお誘いに一瞬で舞い上がり、「あっはははい。よよよよろしくお願いします」、と、かなり慌てて返事したのをよく覚えています。
マネージャーを帰した殿は、フランス座のエレベーター前に立ち止まり、
「毎日ここに立ってよ、客がいねー時は外を見てたんだよ‥‥」
と、エレベーターボーイ時代を軽く思い出すと、
「また浅草だからな。いろんな奴が通るんだ。夏のある日なんてよ、つるピカのハゲ頭にびっちり7・3の形に刺青入れたオヤジが通ったんだけどよ。太陽の光に反射して玉虫色に光ってたんだから。俺はそいつを『浅草アトム』って呼んでたんだけどな」
と、何ともぜいたくな“たけし浅草観光ガイド”がスタートしたのです。
そして、フランス座を出た殿は、六区をひさご通り方面へ歩きだすと、
「ここの裏に立ち食いそば屋があってよ」
「ここで朝はモーニング食ってたんだよ」
等々、丁寧にガイドを続けるのです。もちろん、行き交う人に、「たけちゃ~ん」と声をかけられながら。
そして、六区から少し外れた場所へ来ると、
「ここだよ。俺が住んでたとこ」
と、無名時代、ガリガリに痩せていた、絶賛修行中の北野武君がかつて住んでいた、当時、家賃6000円のアパート、松倉荘へと案内してくれたのです。
「すごいだろ、ここは部屋の鍵が壊れててよ。夜帰ってきたら、知らねー地下足袋履いたオヤジが部屋で寝てたことあったからな。だけどしょうがねーからあきらめて一緒に添い寝しちゃったけどよ」
と、瞬時に漫談モードで思い出を語ってくれたのでした。しかし、あれはなんてぜいたくな浅草観光だったのでしょうか。
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◆プロフィール アル北郷(ある・きたごう) 95年、ビートたけしに弟子入り。08年、「アキレスと亀」にて「東スポ映画大賞新人賞」受賞。現在、TBS系「新・情報7daysニュースキャスター」ブレーンなど多方面で活躍中。本連載の単行本「たけし金言集~あるいは資料として現代北野武秘語録」も絶賛発売中!