60年代から80年代にかけ、日本映画に新風を吹き込んだのが「ATG」の作品群である。基本は1000万円という低予算ながら、映画賞に輝く名作がいくつも誕生した。映画ジャーナリスト・大高宏雄氏が、とりわけ「分岐点」だった5作を解説する。
■「肉弾」(68年)
ATG映画で、燦然と輝く一糸まとわぬ姿といえば、まず「肉弾」の大谷直子(67)でしょう。太平洋戦争末期、寺田農扮する特攻兵と出会い、上半身セーラー服、下半身モンペの女子高生・大谷が、彼の前で羽織っていた毛布をいきなり脱いで、一糸まとわぬ姿になるシーンです。
この場面、相手の寺田も驚くくらい彼女は唐突に脱ぐので、初めて名画座で見た時、私も強烈な印象を抱きました。その潔さと、暗闇に映える白い乳房にドキッとしたのです。
そのあとがすごい。大雨の中、彼女は全裸で外に走りだし、戦車と見立てた車両の下に突っ込みます。彼女の背面から撮ったみごとな尻が、車両の下で光り輝くのです。寺田は、大谷のその突進ぶりを見て感動し、特攻で死ねると決意します。岡本喜八監督作品の中でも、極め付きの名シーンと言えるでしょう。
■「あらかじめ失われた恋人たちよ」(71年)
今、何かと話題の田原総一朗氏が劇作家の清水邦夫氏と共同で監督した本作は、桃井かおり(66)のその後の個性を決定づける作品でした。以降、彼女は多くの作品で裸になるからです。
この作品では、惜しげもなくボリューム感たっぷりの乳房を見せてくれます。見世物のセックスショーもやります。重要なのは、野性児のようなそのあっけらかんとした姿態です。
色気や官能とも、少し違う感じがあります。70年代を覆っていた自由な時代の空気のままに、肉体をさらけ出したといった感じです。裸の露出そのものが、桃井ほど時代感覚を表すことにつながる女優もマレでした。
■「曼陀羅」(71年)
女優の裸というのは、時として驚かされる面が大きいというのが私の認識です。本作の桜井浩子(71)は、その筆頭でしょう。当時、特撮ドラマ「ウルトラマン」の清楚な女性隊員役で知られた彼女が、いきなりヌードになったのだから、私などアゼンとしたものです。
スワッピングやレイプなどで見せたスレンダーな彼女の体は、実はとてもエロティック。独特の性表現に定評のある実相寺昭雄監督の好みの肉体だった気がします。どこか痛々しい感じもする裸体で、それがサディスティックな性的嗜好性を誘うのかもしれません。
■「サード」(78年)
森下愛子(59)の肉体のすばらしさを感じさせる作品です。これまでに多くの女優が裸になってきましたが、彼女の裸の美しさは天下一品だと思います。乳房のキレイな形と柔らかい感じが、全体の肉体のバランスの中で芸術的な均衡を保っているからです。
ヤクザ役の峰岸徹に体を買われて、濃厚なセックスを強要される場面では、フィニッシュのあとののけぞった、あられもない姿態が描かれ、とても官能的でした。森下愛子は、あの時代の女神と言ってもいいでしょう。
■「青春の殺人者」(76年)
原田美枝子(58)の巨乳ぶりは、日本映画の歴史の中で特筆すべきです。本作では、素っ裸で水谷豊と対峙するシーンで、彼を見ながら髪に手をやりニヤッとします。ここは、彼女の土臭い小悪魔的な魅力が全開するシーンで、ゾクゾクするほど官能的です。
少しかすれた声質も、はすっぱな感じがあり、日本人離れしたダイナミックな裸体と込みで、彼女の魅力を強烈に押し出します。ひょっとして彼女の官能性は、その声質のほうに比重があるのかもしれません。